労働者災害補償保険法 ・ 第1章 労災保険のしくみ ― 目的と適用範囲
1-1労災保険の目的と運営者第1条・第2条・第2条の2・第5条
【1条】労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
【2条】労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。
【2条の2】労働者災害補償保険は、第1条の目的を達成するため、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる。
【5条】この法律に基づく政令及び厚生労働省令並びに労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)に基づく政令及び厚生労働省令(労働者災害補償保険事業に係るものに限る。)は、その草案について、労働政策審議会の意見を聞いて、これを制定する。
ポテ労災保険って、民間の保険会社と契約して入るものですよね?
ロウ先生いいえ。労災保険を管掌する、つまり運営するのは政府です(2条)。保険給付の支給は、原則として労働基準監督署長が受け持ちます。
ポテじゃあ給付のことは、ぜんぶ監督署長さんに頼めばいいんですね!
ロウ先生二次健康診断等給付だけは、都道府県労働局長の担当です。試験でよく狙われるところですよ。
ポテなるほど!定食はぜんぶ同じ厨房なのに、デザートだけ別のお店から届くパターンだ!
労災保険は、仕事や通勤が原因でけがや病気をした人を、国が運営する保険で支えるための制度です。この節では「何のために」「誰が運営し」「何をするのか」をまとめて確認します。
目的は「お金」と「立ち直り」の両方
第1条を分解すると、労災保険がやることは次の2つに整理できます。
- 保険給付:業務上の事由、複数事業労働者の2つ以上の勤め先の業務、通勤のいずれかが原因の負傷・疾病・障害・死亡等について、迅速で公正な保護をする。
- 社会復帰促進等事業:被災した人が職場や社会に戻れるよう後押しし、本人と遺族を援護し、働く人の安全と衛生を確保する。
そして、この2つを通じて最終的に「労働者の福祉の増進に寄与する」ことをめざします。第2条の2は、この2本柱を事業の中身として改めて定めた条文です。保険給付は「行う」、社会復帰促進等事業は「行うことができる」と書き分けられています。
| 柱 | 中身 |
|---|---|
| 保険給付 | 3種類の災害(業務・複数業務要因・通勤)それぞれへの給付 二次健康診断等給付 |
| 社会復帰促進等事業 | 社会復帰促進事業 被災労働者等援護事業 安全衛生確保等事業 |
対象が広がってきた歩み
今の姿は最初からあったわけではありません。年表で見ると、守備範囲が少しずつ広がってきたことがわかります。
- 昭和22年:労働基準法と同じ年にスタート。当初は業務災害だけが対象
- 昭和40年:給付の年金化が進み、特別加入の制度ができる
- 昭和48年:通勤災害への給付が加わる
- 昭和51年:傷病補償年金ができる
- 平成8年:介護(補償)給付ができる
- 平成13年:二次健康診断等給付ができる
- 平成22年:船員保険の強制被保険者にも労災保険が適用される
- 令和2年:複数業務要因災害に関する保険給付ができる
運営するのは政府
第2条のとおり、保険者は政府です。民間の保険会社や健康保険組合のような組織が運営することはありません。
実際の窓口はどこか。施行規則第1条で、事務の担当が次のように振り分けられています。
| 担当 | 受け持つ事務 |
|---|---|
| 都道府県労働局長 (上司は厚生労働省の労働基準局長) | 原則としてこちら。二次健康診断等給付もここが担当 |
| 労働基準監督署長 (上司は都道府県労働局長) | ①二次健康診断等給付以外の保険給付を支給すること ②労災就学等援護費の支給 ③特別支給金の支給 ④休業補償特別援護金(厚生労働省労働基準局長が定める給付)の事務 |
どの局・署が担当になるかは、事業場の所在地で決まります。事業場が2つ以上の労働局の管轄にまたがるときは、その事業の主たる事務所の所在地で決めます。
複数業務要因災害の事務は、勤め先のうち本人の生計をいちばん支えている事業(生計維持事業)の主たる事務所の所在地を管轄する局長・署長の担当です。
行政解釈で補う点
- 生計維持事業の判断〔令和2年基発0821第1号〕:原則として、給付基礎日額を計算する期間の賃金総額が一番多い勤め先を指します。
- 事務の委嘱(施行規則第2条の2):業務災害を担当する局・署と、複数業務要因災害を担当する局・署が別々になることがあります。業務災害の調査を先に進めるため、複数業務要因災害の事務の全部または一部を、ほかの局長・署長に委嘱できます。
政令・省令の作り方
第5条は手続のルールです。労災保険法の政令・省令と、徴収法の政令・省令のうち労災保険事業にかかわる部分は、草案の段階で労働政策審議会の意見を聞いてから制定します。保険料を負担する事業主と、給付を受ける労働者の代表が加わる場で、事前にチェックを受けるという趣旨です。
具体例で考える
運送会社に勤めるBさんが、荷下ろし中に腰を痛めたとします。治療費や休業中の補償(保険給付)を決めて支払うのは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署長です。その後、Bさんが職場に戻るための支援や、子どもの学費の援護(労災就学等援護費)といった制度もあります。こちらが社会復帰促進等事業の領域です。一方、Bさんが会社の定期健康診断で異常を指摘され、二次健康診断等給付を使う場合、担当は都道府県労働局長に変わります。
ポイント第1条は「保険給付」と「社会復帰促進等事業」の2本立て、と押さえれば骨格はつかめます。後者の中に「社会復帰の促進」「援護」「安全及び衛生の確保」の3つが入っています。
ひっかけ注意保険給付の事務は監督署長が担当しますが、二次健康診断等給付だけは都道府県労働局長です。「すべての保険給付は労働基準監督署長が行う」という選択肢は誤りです。また、第5条で意見を聞く相手は労働政策審議会であり、社会保障審議会ではありません。
暗記選択式対策として、第1条のキーワードを順番に言えるようにしておきます。「迅速かつ公正な保護」→「保険給付」→「社会復帰の促進」→「遺族の援護」→「安全及び衛生の確保」→「福祉の増進」。
覚え方「駆けつけて、お金を渡して、職場に戻して、家族を支えて、現場を安全に、みんな幸せ」……災害にあった人の物語の順番で、第1条のキーワードを並べる。迅速かつ公正な保護→保険給付→社会復帰の促進→(本人と)遺族の援護→安全及び衛生の確保→福祉の増進。
- 1迅速かつ公正な保護駆けつけて
- 2保険給付お金を渡して
- 3社会復帰の促進職場に戻して
- 4本人と遺族の援護家族を支えて
- 5安全及び衛生の確保現場を安全に
- 6福祉の増進みんな幸せ

ポテ物語の順番なら、すらすら言えそう!