労働者災害補償保険法 ・ 第1章 労災保険のしくみ ― 目的と適用範囲
1-2労働者を1人でも使えば適用される原則第3条第1項
この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。
ペン社長いいこと思いついたぞ!届出さえ出さなければ、うちは労災保険に入らずに済むな!
ロウ先生労働者を1人でも使用していれば、その時点で適用事業です。届出をしたかどうかも、事業主が望むかどうかも関係ありません。
ポテえっ、そうなの!?週2日のアルバイトの私も入ってるんですか?
ロウ先生パートやアルバイトも労働者です。なお、個人経営の小さな農林水産業(暫定任意適用事業)は、当分の間、入るかどうかを選べる例外です。
ポテなるほど!頼まなくても席に着いたら出てくる、お通しみたいなものですね!
労災保険は「人を雇ったら、その瞬間から入っている」のが原則です。働く人を取りこぼさないためのルールで、これを強制適用といいます。
要件はたった1つ
第3条第1項が求めているのは「労働者を使用していること」だけです。業種も規模も問いません。従業員が1人だけの個人商店でも適用事業になります。
手続をしたかどうか、事業主や本人が望んだかどうかも関係ありません。条件を満たせば、法律の力で自動的に保険関係ができあがります。届出を忘れていた事業場で事故が起きても、働く人は給付を受けられます。
ことばの確認
- 事業:会社をまるごと1つと数えるのではありません。本社、支店、工場、工事現場、店舗のように、それ自体で独立して経営が回っている一番小さな単位で数えます〔昭和22年基発36号〕。反復継続して行われていれば足り、もうけを目的としない事業も含みます。
- 労働者:労働基準法第9条の労働者と同じ考え方で判断します。雇用形態の名前は問わないので、パートやアルバイトも当然に対象です。
「この人も対象?」と迷いやすい例
| 働き方 | 適用 | 理由・出典 |
|---|---|---|
| 試用期間中の人 | される | 本採用前でも使用されている点は同じ |
| 在留資格・就労資格のない外国人 | される | 使用されている実態があれば対象 |
| 船員法第1条の船員 | される | 平成22年から労災保険の対象 |
| 在宅勤務の人 | される | 自宅で情報通信機器を使って働く場合も含む〔平成16年基発0305003号〕 |
| 業務執行権・代表権のない役員で、工場長や部長として賃金を受ける人 | その限りでされる | 労働者として働いている部分について |
| 雇用契約を結ばず就労の機会を受ける障害者(就労継続支援) | 基本的にされない | 雇用契約を結んで働く障害者なら対象〔平成18年基発1002004号〕 |
| インターンシップの学生 | 場合による | 直接生産活動に従事し、成果が事業場のものになり、使用従属関係があれば対象〔平成9年基発636号〕 |
| 個人医院の看護師見習 | される | 本来の仕事が看護師見習なら、合間に家事をさせていても対象〔昭和24年基収886号〕 |
家事を行う人は、誰に雇われているかで扱いが分かれます。家事代行サービス事業者に雇われ、事業者が指定した家庭で家事サービスを提供する人は、その事業者の労働者として労災保険の対象です。これに対して、家事従事者紹介所の紹介・あっせんを受けて家庭と雇用契約を結ぶ人は、家庭に直接雇われる家事使用人にあたり(労基法116条2項)、紹介所の労働者として労災保険が適用されることはありません。
出向と派遣はどこの保険で扱うか
会社の外で働くケースは、どちらの事業の保険関係で処理するかが問題になります。
- 出向〔昭和35年基発932号〕:出向の目的、出向元・出向先の契約内容、出向先での働き方の実態などから、労働関係が実際にどちらにあるかを見て決めます。出向先の組織に入り、出向先の指揮監督で働いているなら、出向元が賃金名目で払う分があっても、出向先がそれを自社の賃金総額に含めて保険料を納めると申し出れば、出向先の保険関係で扱います。
- 派遣〔昭和61年基発383号〕:派遣元の事業の保険関係で扱います。
例外:暫定任意適用事業
強制適用には、当分の間の例外があります。個人経営の小さな農林水産業です。昭和40年代に適用を広げる際、零細な事業を一度に取り込むのは事務的に難しかったため、暫定的に「入るかどうかを選べる」扱いにしたものです。
| 業種 | 任意適用になる条件(すべて個人経営が前提) |
|---|---|
| 農業 | 常時使う労働者が5人未満。ただし、一定の危険・有害な作業を主に行う事業と、農業関係の特別加入をしている事業主の事業は除く |
| 林業 | 労働者を常時は使わず、1年以内の使用労働者が延べ300人未満 |
| 水産業 | 常時使う労働者が5人未満で、総トン数5トン未満の漁船で操業するか、5トン以上の漁船でも災害のおそれが少ない河川・湖沼・特定の水面で主に操業するもの。船員を使う船舶所有者の事業は除く |
- 林業で労働者を常時使っている事業は、強制適用です。
- 農業関係の特別加入をしたことで適用事業になった事業は、事業主が後で特別加入をやめても、労働者を使っている限り、労働者の保険関係は消えません〔平成3年発労徴13号・基発123号〕。
労働者でない人のための特別加入
中小企業の事業主、一人親方、特定の作業に従事する人(特定作業従事者)などは労働者ではありません。それでも、労働者と同じように守る必要があるため、特別加入という入り方が用意されています。また、労災保険は原則として海外の事業場には及ばないので、国内の事業から海外へ派遣される人にも特別加入が認められています。詳しくは第12章で扱います。
具体例で考える
Cさんは、学生時代から続けているカフェのアルバイトで、週2日だけ働いています。店のオーナーは「うちは社員がいないから労災は関係ない」と思い込み、手続をしていませんでした。ある日、Cさんが熱湯でやけどをしました。
このカフェは労働者を使用しているので、手続の有無に関係なく適用事業です。Cさんはアルバイトでも労働者なので、労災保険の給付を受けられます。
ひっかけ注意出向は「労働関係の実態」で判断し、派遣は「派遣元」で扱います。両者を入れ替えた選択肢がよく出ます。また、暫定任意適用は個人経営に限られます。「常時5人未満の法人の農業は任意適用」は誤りです。
暗記任意適用の数字は、農業・水産業が「常時5人未満」、林業が「延べ300人未満」、漁船が「5トン未満」。
覚え方「ゴニンの畑と海、サンビャクの森、ゴトンの小舟」……暫定任意適用事業になるのは個人経営だけ。農業と水産業は常時使用する労働者が5人未満、林業は労働者を常時は使わず1年以内の使用が延べ300人未満、水産業はさらに総トン数5トン未満の漁船で操業すること(5トン以上でも、災害のおそれが少ない河川・湖沼・特定の水面で主に操業するものは同じ扱い)。法人なら規模にかかわらず強制適用。
法改正メモ令和8年法律第60号による改正で、小規模な個人経営の農林水産業について暫定任意適用をやめ、強制適用とすることが決まりました。施行日は公布(令和8年7月17日)から5年以内で政令で定める日とされ、2027年試験の時点ではまだ施行されていません。当面は、上で説明した暫定任意適用事業の仕組みで学習してください。