社会保険に関する一般常識 ・ 第1章 家族の支えから社会の支え合いへ ― 社会保険の出発点
1-1子どもの扶養や貯蓄だけでは老後を支えきれない理由国民年金法第1条・厚生年金保険法第1条(考え方)
国民年金法第1条 国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
厚生年金保険法第1条 この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
国民年金法第4条 この法律による年金の額は、国民の生活水準その他の諸事情に著しい変動が生じた場合には、変動後の諸事情に応ずるため、速やかに改定の措置が講ぜられなければならない。
ポテ老後なんて、こつこつ貯金しておけば年金なんかいらないでしょ?
ロウ先生何歳まで生きるかは誰にも分かりませんし、物価が上がれば貯金の値打ちは目減りします。だから公的年金は一生続く終身年金で、額も物価などに合わせて改定されるのです。
ポテじゃあ入るかどうかは自分で選べるんですよね?
ロウ先生いいえ、強制加入です。支え合いの輪から抜ける人が出ると、しくみが回らなくなります。
ポテなるほど!ほねを埋めておいても、どこに埋めたか忘れたら終わりだもんね!
この節は、社会保険の科目全体の「なぜ」にあたる部分です。年金はなぜ国が強制してまで運営するのか。答えは、家族の支えと個人の蓄えだけでは、長い老後を確実に支えられなくなったからです。
家族が支えていた時代から変わったこと
かつての日本では、年をとった親は同居する子どもに養われるか、自分の蓄えで暮らすのがふつうでした。この形を支えていたのは、農業などで家族がいっしょに働き、同じ家に住む暮らし方です。ところが社会の姿が変わり、その前提が崩れていきました。
- 農林漁業など第1次産業で働く人が減り、会社に雇われて働く人が多数になった
- 若い世代が都市へ移り住み、親と離れて暮らす核家族が増えた
- 平均寿命がのびて、仕事をやめてからの年月が長くなった
個人の貯蓄にも弱点があります。自分が何歳まで生きるかを予想して計画どおりに蓄えるのは、ほぼ不可能です。また、思いがけないインフレが起きれば、ためたお金で買える量が減ってしまいます。
こうした事情から、高齢になった人の生活を社会全体で支えるしくみとして公的年金が発達しました。いまの公的年金は、働いている世代が納める保険料で、その時点の高齢者への年金をまかなう世代間扶養の考え方で運営されています。お金を積み立てて自分の分を受け取る方式ではなく、賦課方式が基本です。
公的年金と私的年金を比べる
| 比べる点 | 公的年金(国民年金・厚生年金) | 私的年金(企業年金・個人年金など) |
|---|---|---|
| 位置づけ | 社会保障として老後の暮らしの土台になる | 上乗せを望む人の自助努力 |
| 入るかどうか | 強制加入 | 任意加入 |
| 年金の値打ち | 物価や賃金の動きに応じて額を改定し、実質的な価値を保つ | 物価に合わせて増やすのは難しい |
| 受け取れる期間 | 亡くなるまで続く終身年金。障害・遺族の年金もある | 期間を区切った有期年金が中心 |
| お金の出どころ | 本人と次の世代の保険料、積立金の運用益、国庫負担 | 本人が出したお金とその運用益 |
表の中身を一つずつ確かめる
強制加入である理由。公的年金では、保険料は所得に応じて決まり、給付は必要に応じて行われます。所得の多い人から少ない人へお金が回る所得の再分配が組み込まれているので、払った分と受け取る分がぴったり見合うとは限りません。民間保険の「収支相等の原則」に必ずしもしばられないわけです。そのため、入るかどうかを各自に任せると、損をしそうだと感じた人が抜けてしまい、制度が成り立ちません。
値打ちを保てる理由。保険料を納める期間は40年ほど、受け取る期間も平均で20年近くに及びます。この長い間に物価が上がっても困らないよう、公的年金は額を改定します。平成16年の改正より前は物価スライドが中心でしたが、改正後は、現役世代の人数の減り方などに応じて伸びを抑えるマクロ経済スライドによる調整が組み合わされています。次の世代の保険料も財源になるからこそ、こうした改定ができます。自分の積立金だけが頼りの私的年金では、物価に合わせて年金を増やすのは困難です。
終身である理由。長生きも、障害を負うことも、前もって読めない出来事です。一生続く年金と、障害・遺族への年金で、これらのリスクをまとめて引き受けます。私的年金で終身型を売ると、長生きしそうだと考える人ばかりが申し込む逆選択が起こり、保険料を大きく上げないと採算がとれません。私的年金が有期型中心なのはこのためです。
国のお金が入る理由。公的年金は国の責任で運営する社会保障なので、保険料と積立金の運用収入に加えて国庫負担があります(基礎年金の給付費の2分の1など)。納めた保険料は、社会保険料控除として全額が所得から差し引かれます。
民間保険の3つの原則と社会保険
| 原則の名前 | 何を求めているか |
|---|---|
| 給付・反対給付均等の原則 | 一人ひとりの保険料は、その人が受け取る見込みの給付(期待値)とつり合っていること |
| 保険技術的公平の原則 | 危険の大きい人ほど保険料が高いなど、危険の度合いに応じて保険料を決めること |
| 収支相等の原則 | 大数の法則を使い、集める保険料の合計と支払う給付の合計が等しくなるようにすること |
社会保険は、所得に応じた保険料や国庫負担を取り入れて、これらの原則に手を加えています。だからこそ、保険料を納めない人や加入しない人を放っておけません。未納の期間は本人の将来の年金に結びつかないうえ、賦課方式のもとではほかの人の負担を重くするからです。
具体例で考える
Bさんは65歳で退職し、2,000万円の預金で暮らす計画を立てました。年に100万円ずつ取り崩せば20年もちます。しかし、Bさんが95歳まで生きれば最後の10年はお金が足りません。さらに物価が年2%ずつ上がると、20年後には同じ100万円で買える物が3分の2ほどに減ります。終身で、額も改定される公的年金は、この「長生き」と「物価上昇」の2つを個人に代わって引き受けるしくみです。
ポイント公的年金の特徴は「社会保障の土台・強制加入・実質価値の維持・終身・国庫負担」の5つ。私的年金はそれぞれの裏返し(自助努力・任意加入・実質価値の維持は難しい・有期中心・国庫負担なし)と考えると整理しやすくなります。
ひっかけ注意「私的年金は終身年金が中心」は誤りで、有期年金が中心です。「公的年金は収支相等の原則が厳格に貫かれる」も誤り。世代間扶養は賦課方式の考え方であり、「積立方式=世代間扶養」と結びつける選択肢にも注意します。
暗記公的年金=強制加入・終身・実質価値を維持・国庫負担あり・世代間扶養(賦課方式が基本)。私的年金=任意加入・有期中心。民間保険の3原則=給付・反対給付均等/保険技術的公平/収支相等。
覚え方「きょう(強制)から しゅう(終身)まで じつ(実質価値)は くに(国庫負担)も 手伝う」……公的年金の特徴は、強制加入・終身年金・実質価値の維持・国庫負担あり。私的年金は任意加入で有期年金が中心。
- 強制加入
- 終身年金
- 実質価値を維持
- 国庫負担あり
- 任意加入
- 有期年金が中心
- 物価に合わせて増やすのは難しい
- 国庫負担なし

ロウ先生左右を見くらべると、ちょうど裏返しですね