労働保険徴収法 ・ 第1章 徴収法の役割と基本の言葉
1-2「労働保険」「事業主」「賃金」など用語の意味第2条
① この法律において「労働保険」とは、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)による労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)及び雇用保険法(昭和49年法律第116号)による雇用保険(以下「雇用保険」という。)を総称する。
② この法律において「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うもの(通貨以外のもので支払われるものであつて、厚生労働省令で定める範囲外のものを除く。)をいう。
③ 賃金のうち通貨以外のもので支払われるものの評価に関し必要な事項は、厚生労働大臣が定める。
④ この法律において「保険年度」とは、4月1日から翌年3月31日までをいう。
ポテ休業手当も休業補償も、名前が似てるから両方とも賃金ですよね?
ロウ先生いいえ。労基法26条の休業手当は賃金に入りますが、76条の休業補償は入りません。平均賃金の60%を超えて上乗せした部分も入りません。
ポテえっ、そうなの!?じゃあ結婚祝金は、就業規則で約束してたら賃金?
ロウ先生慶弔の給付は、労働協約などで支給が義務になっていても賃金に入りません。迷ったら「働いたことへの見返りか」で考えます。
ポテなるほど!毎日のごはんは賃金で、お祝いのケーキは別腹ってことか〜。
保険料は「賃金の総額×料率」で計算します(第4章)。だから何が賃金に入るかは、そのまま保険料の大きさに響きます。この節の中心は賃金の線引きです。
ことばの確認
- 労働保険…労災保険と雇用保険の二つをまとめた呼び名。
- 保険年度…会計年度と同じく4月スタート・3月締めの1年です。保険料の計算はこの区切りで行います。
- 賃金…呼び名は問いません。判断の決め手は「労働の対償」かどうか、そして支払うのが「事業主」かどうかです。
品物で払うものはどうなるか
お金ではなく品物や利益で支給されるものは、すべてが賃金になるわけではありません。決め方は「範囲」と「値段」で担当が分かれます。
| 決めること | 誰が決めるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 賃金に数える範囲 | 食事・被服・住居の利益は当然に対象。それ以外は、地元の監督署長か安定所長が指定したものに限る | 施行規則3条 |
| 評価額(いくらと見るか) | 厚生労働大臣 | 2条3項 |
- 本社と支店をあわせて一つの適用事業所としている会社では、支店で働く人の現物給与には、その人の勤務地がある都道府県の価額を使います〔平成25年基発0204第1号〕。
- 社宅を無料で貸している場合、社宅に入っていない人に釣り合いをとる定額の手当(均衡手当)を一律に出していなければ、その住居の利益は福利厚生として扱い、賃金にはなりません。均衡手当を出しているときは、その評価額を上限に賃金となります。
- 会社の給食は、①食べても賃金が減らない、②労働協約や就業規則ではっきりした労働条件になっていない、③客観的な評価額がごくわずか、の3つがそろえば福利厚生扱いで賃金に含めません〔昭和30年基発644号〕。
賃金に入るか、入らないか
迷ったら「働いたことへの見返りか」「恩恵や実費の性格が強くないか」を考えます。
| 賃金に入る | 賃金に入らない |
|---|---|
| 基本給、賞与、年休日の給与、能率給、保険外務員の歩合給、事業主から分配されるチップ | 退職金、退職後に払う給与、解雇予告手当 |
| 家族手当、住宅手当、勤務地手当、単身赴任手当、役職手当、技能手当、皆勤手当、奨励手当、超過勤務手当、宿日直料 | 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金・傷病見舞金・出産見舞金など個人的な慶弔の給付(労働協約などで支給が義務になっていても入らない) |
| 通勤手当、通勤定期券 | 会社が全額負担する生命保険の掛金 |
| 労基法26条の休業手当 | 労基法76条の休業補償(法定の平均賃金60%を超えて上乗せした部分も含めて入らない) |
| 通勤災害で療養のため休んだ期間に会社が払う賃金、育児休業・介護休業の期間中に会社が払う賃金 | 健康保険の傷病手当金・出産手当金 |
| 本人負担の所得税・社会保険料・雇用保険料を、労働協約などの義務に基づいて会社が肩代わりした分 | 財産形成貯蓄を奨励するため会社が出す奨励金 |
| 3か月を超える期間ごとに払うもの、臨時に払うもの | 業務で着ることを条件に支給する作業衣、現物の代わりに出す被服費相当額 |
ポイント健康保険・厚生年金保険の「報酬」では、3か月を超える期間ごとに払うものや臨時のものは対象外です。徴収法の賃金にはこれらも入ります。科目をまたいだ比較問題で狙われます。
行政解釈で決まっている細かい扱い
- 退職金の前払い:在職中に退職金相当額を給与や賞与に上乗せして払う方式なら、原則として賃金総額に入れます。退職のときに払うもの、会社の都合で退職前に一時金として払うものは入れません〔平成15年基徴発第1001001号〕。
- 傷病手当金への上乗せ:健康保険の傷病手当金に会社が上乗せする給付は、恩恵的なものと認められれば賃金総額に含めません〔昭和27年基収2244号〕。
- さかのぼった昇給:昇給額が決まる前に辞めた人でも、昇給することと計算方法が決まっていれば、退職後に払う差額は支払義務が確定した賃金です〔昭和32年失保収652号〕(H29択一)。
- 締切日前の死亡:亡くなる前に働いた分の賃金は支払義務が確定しています。その賃金にも保険料がかかります(H29択一)。
- 海外支店への転勤:会社の命令で国外の支店・出張所へ転勤した人に払う賃金も、賃金総額に含めます。
- 取締役:業務執行権がなく、指揮命令を受けて働き賃金を受ける取締役は労災保険の対象になります。その人への支払のうち、一般の労働者と同じ条件で払う部分だけを賃金総額に入れます〔昭和34年基発48号〕。
使用従属関係のない請負人は労働者に当たらないので、その人に払った報酬は賃金にならず、確定賃金総額には含まれません(2条2項)。
どの会社の労働者として数えるか
| 働き方 | 扱い |
|---|---|
| 派遣で働く人 | 派遣元の事業の労働者〔昭和61年発労徴41号ほか〕 |
| 在籍出向の人 | 出向の目的、出向元と出向先の契約内容、出向先での働き方の実態などから、どちらとの間に労働関係があるかを判断〔昭和35年基発932号〕 |
| 2つ以上の会社に雇われている人 | 労災保険はそれぞれの事業の労働者。雇用保険は原則として主たる賃金を受ける1つの事業の労働者。ただし特例高年齢被保険者は、それぞれの事業主が払う賃金総額に雇用保険率をかけるのが原則 |
具体例で考える
家具店を営む山本商会では、6月に社員の佐藤さんへ①月給25万円、②結婚祝金3万円、③会社都合の休業に対する休業手当6万円を払いました。保険料の計算に入るのは①と③の31万円です。②は就業規則で支給を約束していても、慶弔の給付なので入りません。
ひっかけ注意「現物給与の評価は所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長が定める」とあれば誤りです。評価は厚生労働大臣、範囲(食事・被服・住居以外)が署長・所長です(R5択一)。休業手当は入り、休業補償は入らない、の取り違えも定番です。
暗記入る側は「休業手当・通勤手当・在職中の退職金前払い・育休や介護休業や通勤災害の休業中に会社が払う分」。入らない側は「退職金・解雇予告手当・休業補償・慶弔見舞金・会社全額負担の生命保険料」。
覚え方「値札を付けるのは大臣、品ぞろえは署長・所長」……品物で支払うもののうち、賃金に数える範囲は、食事・被服・住居の利益なら当然に対象、それ以外は所轄の監督署長か安定所長が指定したものに限る(施行規則3条)。いくらと評価するかは厚生労働大臣が定める(2条3項)。
- 食事・被服・住居の利益は当然に対象
- それ以外は監督署長か安定所長が指定したもの
- 厚生労働大臣が定める