判例まとめ ・ 第1章 労基法の総則と「労働者」
1-2日中旅行社事件(「信条」と政治的意見)大阪地判昭44.12.26
| 裁判所 | 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 年月日 | 昭和44年12月26日 判決 |
| 事件番号 | 昭和42(ヨ)1874 |
| 結論 | 解雇は労働者の政治的信条を理由とするもので、労基法3条に違反し公序良俗に反して無効。仮処分として従業員の地位を仮に定め、賃金の仮払いを命じた(求めた金額の一部は却下) |
| 原文 | 裁判所ウェブサイト |
ポテ信条って宗教のことですよね?政治の意見の違いで解雇しても、3条は関係なし!
ロウ先生この判決は、3条の信条は憲法14条の信条と同じで、具体的な政治の方向についての政治的意見も含むとしました。
ポテえっ、そうなの!?でもこの会社は「営業所を閉鎖するから」って全員を解雇したんでしょ?
ロウ先生裁判所は、閉鎖は解雇をしやすくする手段で、本当の理由は政治的信条だと認定し、解雇を無効としました。
ポテなるほど!おやつの包み紙を替えても、中身が「信条で決めた解雇」ならアウトなんですね!
事案の概要
会社Yは、日中友好協会の全国大会の決定にもとづいて昭和39年に設立された、中国への渡航のあっせんを主な業務とする株式会社です。労働者X1・X2は、昭和41年4月に正社員となり、関西営業所で渡航手続などの業務をしていました。2人は入社前の昭和37年4月から日中友好協会の会員で、また日本共産党の党員でもありました。
昭和41年10月に日中友好協会が分裂し、Yの役員のほとんどは新しくできた「正統本部」に移りました。Yも、正統本部を支持して日中友好協会とは一切の関係を断つと決めました。Xらが協会に残ったため、Yはくり返し協会を抜けて正統本部に入るよう求め、昭和42年3月2日には、自宅で共同声明などを学習してレポートを出すよう休職を命じました。同じころ、関西で日中貿易を進める団体が、関西営業所の職員が日中友好協会に属していることを理由に、営業所を渡航あっせん業者とする指定を取り消しました。
Yは、団体交渉が続いている最中の3月25日、Xらに知らせずに事務所の賃貸借契約を合意解除し、翌26日に関西営業所を閉鎖して、Xらを含む所員全員を解雇しました(予告手当の名目で2万3,000円を送付)。Xらは、解雇は思想・信条を理由とするもので無効だとして、従業員としての地位の保全と賃金の仮払いを求めました。
争点
- 解雇の本当の理由は、営業所の閉鎖か、Xらの政治的信条か
- 労基法3条の「信条」に、具体的な政治問題についての意見(政治的意見)も含まれるか
- 特定の政治的な考え方の支持を存立の条件とする会社なら、考えの違う従業員を解雇できるか
判断(詳細)
- 解雇の原因は政治的信条。指定の取消しで営業所の営業に相当な影響はあったが、閉鎖しなければならないほどではありませんでした(営業所は赤字でも全社のために維持されており、閉鎖後には所長を担当者とする身代わりの会社まで設立されている)。営業所の閉鎖はXらの解雇をしやすくする手段としてされたもので、目的はXらを、会社と敵対する日中友好協会と日本共産党に属しその政治的信条に同調したことを理由に排除することにあったと認定しました。
- 信条には政治的意見も含まれる。Yは「信条は宗教的な信仰や世界観などの基本的な信念で、個々の具体的な政治問題についての意見は含まない」と主張しましたが、裁判所は退けました。政治的信条は、政治に関するものである以上、本質的に国の具体的な政治の方向について実践的な志向を持つものだからです。
「労基法三条の規定は憲法一四条の定める法の下の平等の原理を私人間の関係としての労働関係に適用したもので、そこに規定された信条は憲法一四条所定の信条と同一で政治的意見を含むものであるから、使用者は労働者の政治的意見を理由として差別的取扱をしてはならないものと解すベきである。」
差別的取扱いには解雇も含まれるので、政治的意見を理由とする解雇は3条に違反し、民法90条により無効です。国家公務員法・地方公務員法が信条と政治的意見を別々に書いていることも、政治的意見が信条に含まれないことの根拠にはならないとしました。 - 特定の考え方を存立の条件とする事業の例外。特定の考え方を存立の条件とし、労働者にもその支持を求める事業が認められるのは、事業がその考え方と本質的に不可分で、労働者に支持を求めることが事業の本質から見て客観的に妥当な場合(政党、宗教団体、特定の宗教的・政治的な考え方の宣伝・布教を目的とする事業など)に限られます。しかもその資格要件は、個別の雇用契約だけでなく、労働協約か少なくとも就業規則の労働条件の部分に明記しなければなりません。Yは政治的な考え方に関わりのないことを建前とし、広く株主の出資で設立された営利会社で、従業員の資格要件も定めていなかったので、この例外にあたりません。
- 信条にもとづく行動は別に考える。信条が3条で守られるのは内心にとどまる場合で、信条にもとづく具体的な行動があり、それが事業に明白かつ現在の危害を及ぼす具体的な危険を生じさせたときは、その行動を理由とする解雇が可能になる場合もあります。しかし、末端の従業員にすぎないXらが政党や協会に属しているだけでは、取引先が依頼を全面的にやめたり、中国側の旅行会社から契約を破棄されたりする具体的な危険は生じていませんでした(契約を破棄された同業の別会社は、経営首脳部自身が協会に残った例で、事情が本質的に違う)。
- 結論。解雇は無効で、Xらは従業員の地位にあり賃金を受ける権利があるとして、地位を仮に定め、賃金の仮払いを命じました。仮払いの月額は、労基法12条の趣旨を参考に解雇前3か月の平均で計算し、Xらが求めた6か月平均による金額との差は却下しました。
試験のポイント
- 3条の「信条」は宗教的な信念に限られず、政治的信条を含み、具体的な政治問題についての意見(政治的意見)まで含むとされた。
- 政治的信条を理由とする解雇は、3条違反・公序良俗違反(民法90条)で無効。
- 営業所の閉鎖という形をとっていても、実際の理由が政治的信条であれば3条の問題になる(閉鎖が解雇の手段と認定された)。
- 特定の考え方を存立の条件とする事業の例外は、事業とその考え方が本質的に不可分な場合(政党・宗教団体など)に限られ、労働協約か就業規則への明記も必要とされた。営利の旅行会社はあたらない。
- 信条が守られるのは内心にとどまる場合。信条にもとづく行動が事業に明白かつ現在の危害を及ぼす具体的な危険を生んだときは、行動を理由とする解雇が可能な場合もある。
- 採用の場面を扱った三菱樹脂事件と違い、この事件は雇い入れた後の解雇の事案(地方裁判所の仮処分の判決)。
ひっかけ注意「3条の信条は宗教的な信仰や世界観に限られ、具体的な政治問題についての意見は含まれない」は誤りです。この判決は、政治的意見も信条に含まれるとしました。また「会社が特定の政治的立場を経営方針にしていれば、それと違う政治的信条の従業員を解雇しても3条違反にならない」も誤りです。例外は、事業とその考え方が本質的に不可分で、労働協約か就業規則に明記がある場合に限られ、本件の会社はあたらないとされました。
関連条文・テキスト
労働基準法3条(均等待遇)、憲法14条、民法90条。テキスト: 労基 1-3
暗記信条=宗教+政治的信条(具体的な政治的意見も含む)。政治的信条を理由とする解雇は3条違反・公序良俗違反で無効。例外は政党・宗教団体のように考え方と事業が本質的に不可分な場合だけ。
覚え方「心の中はバリアつき、行動は別の物差し」……3条の信条には政治的意見も含まれ、内心にとどまる限り、それを理由とする差別的取扱い(解雇を含む)は禁止。信条にもとづく行動が事業に明白かつ現在の危害を及ぼす具体的な危険を生んだときは、その行動を理由とする解雇が可能な場合もある(本件は危険なしとされ、解雇は無効)。
- 政治的意見も信条に含まれる
- それを理由とする差別的取扱い(解雇を含む)は禁止
- 事業に明白かつ現在の危害を及ぼす具体的な危険を生んだら
- 行動を理由とする解雇が可能な場合もある
- 本件は危険なしとされ、解雇は無効