労働基準法 ・ 第1章 労基法の出発点 ― 目的と労働条件の基本ルール
1-1「人たるに値する生活」と最低基準の意味第1条
1. 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
2. この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
ポテ労基法の基準どおりなら満点ってことですよね?うちの会社、ぎりぎり合格をめざします!
ロウ先生労基法の基準は「最低」のラインです。それを理由に条件を下げてはいけませんし、よくしていくよう努めることも求められています。
ポテえっ、合格点じゃなくて、ここを割ったらアウトの床だったの!?
ロウ先生そうです。ただ「向上を図る」は努力義務なので、罰則はありません。
ポテなるほど!おやつのジャーキーも「最低1本」より、たくさんあるほうがうれしいですもんね!
第1条は、労基法全体が何をめざすのかを宣言した条文です。ひとことで言えば「働く人がまともに暮らせる水準を守る」ためのルールです。
土台にあるのは憲法です。生存権を定めた憲法25条1項と同じ考え方に立ち、「勤労条件の基準は法律で定める」とした憲法27条2項を具体化したものが労基法だと位置づけられています。
この法律は二つの方法で守らせます。一つは、違反した使用者に罰則を科すという刑事面の手段です。もう一つは、基準を下回る契約の部分を無効にするという民事面の手段です。
1項:めざす水準
1項は、労働条件が「人たるに値する生活」をまかなえるものでなければならないとしています。ここでいう生活は本人だけの話ではありません。〔昭和22年基発401号〕は、労働者の標準的な家族の暮らしまで含めて考えるとしています。どこまでを標準家族とみるかは、その時代の社会通念で決まります。
2項:「最低」の意味
2項のキーワードは「最低」です。労基法の数字は、ここを割ったら違反になるという床の高さを示しているにすぎません。「法律どおりだから十分」というお墨付きではないのです。
そこで2項は、労使の双方に二つのことを求めています。
- 「法律の基準はこれだけだから」と言って、今の条件を引き下げてはいけない。
- 条件をよくしていくよう努めなければならない。
なお、2項に出てくる「労働関係の当事者」は、個々の会社と従業員に限られません。経営者側の団体や、労働組合も含まれます。
具体例で考える
家具メーカーのA社は、創業以来、従業員の年間休日を125日にしてきました。業績は安定しています。ところが新任の総務部長が「労基法の休日の基準はもっと少ない。法律の範囲内だから休日を減らそう」と提案しました。
この提案は、法の基準を引き下げの口実にしています。まさに2項が戒めている考え方です。一方で、景気の急変など社会や経済の状況が大きく変わったことが決め手となって条件を見直すのであれば、1条に反するものではありません〔昭和63年基発150号〕。問題になるのは「法律がこうだから」という理屈そのものです。
行政解釈で押さえる点
- 「労働条件」の範囲〔昭和63年基発150号〕:お金と時間だけではありません。解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎なども含め、職場での待遇の一切を指します。
- 条件の引下げ〔同〕:社会経済情勢の変動などが決定的な理由であれば、労働条件を下げても1条違反にはなりません。
- 標準家族〔昭和22年基発401号〕:「人たるに値する生活」は家族を含めて考え、その範囲は社会通念で判断します。
ポイント第1条は、ほかの条文を読むときのものさしになる条文です。迷ったら「最低限の暮らしを守るためのルールだったな」と立ち返ると、個別の規定の狙いが見えやすくなります。
ひっかけ注意2項の「向上を図る」は、努めなければならないという努力義務です。「向上させる義務がある」「違反すれば罰則」といった選択肢は誤りです。また、労働条件を賃金と労働時間だけに限定する記述にも注意してください。
暗記1条=生存権(憲法25条)と同じ趣旨、勤労条件の法定(憲法27条2項)を受けた規定。罰則なし。標準家族を含む。
覚え方「生きるための最低ライン、その上を目指すのは努力で」……1条は、生存権を定めた憲法25条1項と同じ考え方に立ち、勤労条件の基準を法律で定めるとした憲法27条2項を具体化したもの。労基法の基準は最低のもので、向上を図るのは努力義務(罰則なし)。「人たるに値する生活」には標準家族の暮らしも含む。
- ×「法律の基準どおりだから十分」と考える
- ×法の基準を理由に、いまの条件を引き下げる
- ○条件をよくしていくよう努める(努力義務・罰則なし)
- ○「人たるに値する生活」には標準家族の暮らしも含む

ロウ先生床より上をめざすのは努力で、と覚えましょう