労働基準法 ・ 第1章 労基法の出発点 ― 目的と労働条件の基本ルール
1-5暴行・脅迫などで労働を強いることの禁止第5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
ペン社長いいこと思いついたぞ!繁忙期は寮のカギを外からかけて、みんなに残ってもらおう!
ロウ先生それは監禁にあたり、本人の意思に反して働かせる5条違反です。罰則は1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金で、労基法で最も重いものです。
ポテでも、結局だれも働かなかったらセーフですよね?
ロウ先生実際に働かせたかどうかは問われません。意思に反して労働を強制すれば、5条違反になります。
ペン社長……カギ作戦は、今すぐ取りやめるぞ!
第5条は、力ずくで人を働かせることを禁じる条文です。戦前には、労働者を宿舎に閉じ込めて逃げられないようにし、過酷な労働をさせる「タコ部屋」のような慣行がありました。こうした人身の拘束を断ち切るため、刑法よりも広い範囲の行為をとらえ、しかも重い罰を用意しています。
成立の要件
- 手段:暴行、脅迫、監禁、またはそれ以外の方法で、心や体の自由を不当に縛ること
- 目的・結果:その手段によって、本人の意思に反して働かせようとすること
注意したいのは、実際に働かせたかどうかは問われない点です。意思に反して労働を強いれば、結果として労働がされなくても5条違反になります〔昭和23年基発381号〕。
5条が前提とする労働関係は、正式な労働契約によるものに限られません。実態として労働関係があると認められれば足ります〔昭和23年基発381号〕。
ことばの確認
暴行・脅迫・監禁は、刑法と同じ意味で使われています。
| 手段 | 刑法の対応条文 | 中身 |
|---|---|---|
| 暴行 | 208条 | 体に向けて不法に物理的な力を加えること。殴る、蹴る、水をかけるなど。けがをさせることや痛みを与えることまでは必要ない |
| 脅迫 | 222条 | 本人や親族の命・体・自由・名誉・財産に危害を加えると告げて怖がらせること。自分でやると言っても第三者にやらせると言っても同じ。はっきり言わずにほのめかすだけでも足りる |
| 監禁 | 220条 | 一定の場所から出られない状態にして体の自由を奪うこと。鍵や壁のような物理的な障害がなくてもよく、だまして連れてきたうえで、後の仕返しを恐れて逃げられないようにする場合も含む |
「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」とは、心の働きや体の動きを何らかの形で妨げる方法をいいます〔昭和22年発基17号、昭和63年基発150号〕。
暴行・脅迫・監禁以外の手段
〔昭和63年基発150号・婦発47号〕は、ほかにも長期の労働契約、契約を守らなかったときの賠償額を前もって決める契約、前借金の契約、強制的な貯金などが手段になりうるとしています。これらを使って働かせた場合、その手段が正当か不当かで5条違反かどうかが決まります。
一方、社会通念上認められる程度の懲戒処分を就業規則に定めておくことは、これにあたりません。
具体例で考える
建設現場を請け負うH工業の現場責任者が、寮に住む作業員Iさんに「辞めると言うなら実家に押しかけるぞ」と告げ、退職を申し出させないまま現場に出させようとしました。Iさんはその日、体調不良を理由に結局働きませんでした。
親族への危害をほのめかしており脅迫にあたります。Iさんが実際には働いていなくても、意思に反して労働を強制しようとした以上、5条違反が成立します。
刑法との関係と罰則
一つの行為が5条違反と刑法の暴行罪などの両方にあてはまる場合は、5条違反の罪だけが成立し、刑法の罪は成り立たないと考えられています。
罰則は1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金で、労基法の中で最も重いものです。
ポイント人の自由そのものを奪う行為だから罰も最重量級、と理屈でつなげておくと数字を忘れにくくなります。
ひっかけ注意「実際に労働させなければ5条違反は成立しない」「暴行罪と5条違反の両方が成立する」は誤りです。また、暴行は傷害を伴う必要がありません。
暗記5条の罰=1年以上10年以下の拘禁刑/20万円以上300万円以下の罰金(労基法で最も重い)。
覚え方「イチ・ジュウ、ニ・サンビャクで最重量」……5条違反の罰則は1年以上10年以下の拘禁刑、または20万円以上300万円以下の罰金で、労基法の中で最も重い。実際に労働させなくても成立し、刑法の暴行罪などにもあたる場合は5条違反の罪だけが成立する。

ポテイチ・ジュウ、ニ・サンビャク!