労働基準法 ・ 第11章 技能者の養成と災害補償
11-2使用者の災害補償責任と労災保険との関係第75条〜第88条
【75条1項】労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
【76条1項】労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。
ポテ労災保険があるから、会社は休業の補償を一切しなくていいんですよね?
ロウ先生労災保険の休業補償給付は休業4日目からです。最初の3日間は、会社が平均賃金の100分の60を払います。
ポテ本人の大きな不注意でけがをしたら、治療費も出ないんですか?
ロウ先生重大な過失で署長の認定を受けても、免除されるのは休業補償と障害補償だけです。療養補償は残ります。
ポテなるほど!重大な過失があっても、治療の補償はなくならないんですね!
仕事が原因でけがや病気をしたとき、その損失を働く人だけに背負わせない。これが災害補償の考え方です。会社に落ち度があったかどうかは問いません。業務上の災害であれば、使用者は決められた補償をする責任を負います(無過失責任)。
6つの補償と打切・分割
金額の多くは「平均賃金の何日分」で決まっています。下の表で、どんなときに、いくら払うのかを整理しましょう。
| 種類(条文) | どんなとき | 中身 |
|---|---|---|
| 療養補償(75条) | 業務上のけが・病気 | 使用者の費用で療養を行う、または療養費を負担する |
| 休業補償(76条) | 療養のため働けず、賃金をもらえない | 療養している間、平均賃金の100分の60 |
| 障害補償(77条) | 治った後に障害が残った | 等級(1〜14級)に応じて平均賃金の1,340日分〜50日分 |
| 遺族補償(79条) | 業務上で亡くなった | 遺族に平均賃金の1,000日分 |
| 葬祭料(80条) | 業務上で亡くなった | 葬祭を行う人に平均賃金の60日分 |
| 打切補償(81条) | 療養を始めて3年たっても治らない | 平均賃金の1,200日分を払えば、以後の補償はしなくてよい |
| 分割補償(82条) | 一度に払う力がない | 支払能力があることを証明し、受ける人の同意を得れば、障害補償・遺族補償を6年にわたり毎年払える |
補償に関連して、労働者が就業中や事業場・附属建設物の中でけがをしたり、病気になったり、亡くなったりしたときは、使用者は遅滞なく医師に診断させる必要があります(労基則37条)。
派遣で働く人が派遣先の職場で業務上けがをして休んだ場合、休業補償をする義務を負うのは派遣元の使用者です。派遣先ではありません。
打切補償と解雇制限のつながり
業務上の傷病で療養のために休んでいる期間とその後30日間は、原則として解雇できません(19条)。ところが、療養開始から3年を過ぎた時点で打切補償を払えば、この解雇制限は外れます(19条1項ただし書)。3年を過ぎていれば、支払うタイミングはいつでもかまいません。
重大な過失があったとき(78条)
次の二つがそろうと、使用者は休業補償と障害補償をしなくてよくなります。
- 労働者本人の重大な過失でけが・病気になったこと
- 本人の重大な過失であることを、所轄労働基準監督署長(条文上は「行政官庁」)が認めたこと
本人がどれだけ不注意でも、療養補償・遺族補償・葬祭料は免除の対象になりません。治療と、亡くなった場合の補償は守られる、と覚えておきましょう。
補償を受ける権利の保護(83条)
- 会社を辞めても、補償を受ける権利はそのまま残ります。
- この権利は、他人に譲ることも、差し押さえることもできません。
労災保険・民法との関係(84条)
実際には、業務災害の補償はほとんど労災保険から給付されます。労災保険法などで労基法の補償に相当する給付が行われるべき場合、使用者は労基法上の補償責任を免れます。
ただし例外が一つあります。労災保険の休業補償給付は、休業4日目からしか出ません。最初の3日間(待期期間)は、使用者が労基法に基づいて平均賃金の100分の60を休業補償として払う必要があります。
また、使用者が労基法の補償をしたときは、同じ事故について、支払った価額の範囲で民法上の損害賠償の責任も免れます。
もめたときの手続(85条・86条)
- 業務上かどうかの認定、療養の方法、補償額などに不服がある人は、所轄労働基準監督署長に審査や仲裁を申し立てられます。署長が自分から(職権で)審査・仲裁を始めることもできます。
- 同じ事件で民事訴訟が起こされたときは、署長は審査・仲裁をしません。
- 申立てや職権での開始は、時効の完成猶予と更新については裁判上の請求とみなされます。
- 署長の結果に納得できなければ、労働者災害補償保険審査官に審査・仲裁を申し立てられます(86条)。
建設業の下請構造(87条)
建設現場では、元請けから一次・二次と仕事が下りていきます。小さな下請けでは補償が払えないおそれがあるため、数次の請負で行う建設の事業では、災害補償について元請負人を使用者とみなします。
- 元請負人が書面の契約で下請負人に補償を引き受けさせた場合は、その下請負人も使用者になります。ただし、同じ事業について2以上の下請負人に重ねて引き受けさせることはできません。
- 補償を請求された元請負人は、引き受けた下請負人にまず催告するよう求めることができます。下請負人が破産手続開始の決定を受けたときや、行方がわからないときは、この主張はできません。
具体例で考える
平均賃金が1万円の倉庫作業員Cさんが、フォークリフトの事故で足を骨折し、10日間休んだとします。最初の3日間は会社が1日6,000円(1万円×60%)を休業補償として払います。4日目以降は労災保険の休業補償給付に切り替わります。治療費は労災保険の療養補償給付でまかなわれるので、会社は労基法上の療養補償を免れます。
ひっかけ注意78条で免除されるのは「休業補償と障害補償」だけです。要件も「重大な過失」と「監督署長の認定」の両方が必要です。「軽い過失でも」「療養補償も免除される」とあれば誤りです。また、待期3日間の休業補償を「労災保険から出る」とする選択肢にも注意しましょう。
暗記休業60%/障害1,340〜50日分/遺族1,000日分/葬祭60日分/打切1,200日分(療養開始から3年)/分割は6年。災害補償を請求する権利の時効は2年です(令和9年4月1日から、政令で定める一定の疾病は5年)。
覚え方「ロクでそろえる休業と葬祭、遺族はセン、3年たったらセンニヒャクで打切り」……休業補償は平均賃金の100分の60(76条)、葬祭料は60日分(80条)、遺族補償は1,000日分(79条)。療養開始から3年たっても治らないときは1,200日分の打切補償で以後の補償をしなくてよい(81条)。障害補償は1,340日分〜50日分(77条)、分割補償は6年(82条)。

ポテロクでそろえる休業と葬祭!