労働基準法 ・ 第12章 就業規則 ― 職場のルールブック
12-2必ず書く事項・定めたら書く事項と意見聴取第89条・第90条
【89条各号】
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
【90条】① 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。② 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
ポテ就業規則を変えるときは、労働者代表の同意をもらわないとダメですよね?
ロウ先生90条で必要なのは、意見を聴くことです。同意までは求められていません。
ポテえっ、反対されても大丈夫なの!?
ロウ先生はい。全面的に反対する意見書でも、ほかの要件がそろっていれば規則の効力に影響しません。届出には意見を書いた書面を添えます。
ポテなるほど!味見はしてもらうけど、メニューを決めるのはお店なんですね!
89条は「就業規則に最低限これだけは書きなさい」という中身のリストです。90条は、会社が一方的に決めてしまわないよう、働く側の声を聴く手続を定めています。中身と手続の二本立てで押さえましょう。
記載事項は3つのグループ
| グループ | 性格 | 中身 |
|---|---|---|
| 絶対的必要記載事項(1号〜3号) | どの就業規則にも必ず書く | ①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換 ②賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算・支払の方法、締切り・支払の時期、昇給 ③退職(解雇の事由を含む) |
| 相対的必要記載事項(3号の2〜10号) | 制度を設けるなら書く | 退職手当/臨時の賃金等・最低賃金額/食費・作業用品などの負担/安全衛生/職業訓練/災害補償・業務外の傷病扶助/表彰・制裁の種類と程度/その事業場の全員に適用されるルール |
| 任意的記載事項 | 書くかどうか自由 | 規則を作った目的や基本理念、「労働条件の決定・変更は労働組合と協議する」といった定めなど |
「解雇の事由」は、平成15年の改正で絶対的必要記載事項に明記されました。
ポイント必ず書く事項は「時間」「毎月の給料」「辞め方」の3つです。同じお金の話でも、退職金(退職手当)とボーナス(臨時の賃金)は「あるなら書く」側に入ります。表彰や懲戒も、制度を置かないなら書く必要はありません。
具体例で考える
従業員30人の印刷会社「ひかり印刷」が就業規則を作ります。退職金制度はなく、懲戒の制度は設けるつもりです。この場合、始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、給料の計算と支払日、昇給、退職と解雇の事由は必ず書きます。退職金の制度がないので、退職手当の項目は不要です。懲戒は設けるので、その種類と程度を書かなければなりません。
行政解釈(必ず書く事項)
- 〔昭和23年基収4281号〕許可を受けた監視・断続的労働の従事者(41条3号)にも89条は適用されます。労働時間の規制が外れていても、始業・終業の時刻は就業規則に書く必要があります。
- 〔昭和63年基発1号〕フレックスタイム制では、始業・終業の時刻を労働者に任せる旨を書けば足ります。コアタイムやフレキシブルタイムを置くなら、その内容も書きます。
- 〔昭和63年基発150号〕職種や勤務形態によって始業・終業時刻が違うなら、それぞれについて書きます。「1日8時間」と時間の長さだけ書いても足りません。
- 〔平成11年基発168号〕育児・介護休業法の育児休業も「休暇」に含まれます。対象者の範囲、取得手続、休業期間を書く必要があります。ただし「育児・介護休業法の定めにより与える」と書いておけば義務は果たせます。
行政解釈(定めたら書く事項)
- 〔昭和63年基発1号〕退職金を払わない場合や減らす場合の条件を設けるなら、それは退職手当の決定・計算方法の一部なので、就業規則に書きます。
- 〔昭和25年基収3751号〕休職制度、財形などの福利厚生、旅費の規程、ストックオプションの一般的な定めは、「全員に適用されるルール」として記載対象になります。
- 〔昭和23年基収4281号〕病気などで欠勤した日を、本人の請求で年次有給休暇に振り替える扱いが制度として定着しているなら、就業規則に書く必要があります。
ひっかけ注意「労働組合と協議して決める」という条項は任意的記載事項です。「必ず記載しなければならない」とする選択肢は誤りです。反対に、制裁を設けない会社が「制裁は設けない」と書く必要もありません。
意見聴取の手続(90条)
- 誰に聴くか 事業場の全労働者の過半数が入っている労働組合があればその組合、なければ全労働者の過半数を代表する者です。正社員とパートがいれば、両方を合わせた人数で過半数を考えます〔昭和63年基発150号〕。
- 代表者の条件 管理監督者でないこと、投票や挙手などの方法で選ばれたことなど、労基則6条の2の要件を満たす人でなければなりません。
- 何をするか 意見を「聴く」ことです。相談をもちかける、という程度の意味で、組合と協議して決めることまでは求められていません〔昭和25年基収525号〕。
- 届出のとき 意見を記した書面を添付します。書面には、代表者の氏名を書きます(労基則49条2項)。
本社で一括して作成し、各事業場の分を本社の所轄監督署長へまとめて届け出る場合でも、意見書は事業場ごとに、その事業場の過半数組合または過半数代表者から取ります。本社の代表者の意見書1通で各事業場の分を兼ねることはできません〔令和7年基発0328第9号〕。
監督署長から法令・労働協約に反するとして変更を命じられ、それに従って規則を直す場合も、意見聴取は省けません。
反対意見や意見書が出ないとき
- 〔昭和24年基発373号〕使用者は聴いた意見に縛られません。全面的に反対する意見書が付いていても、他の要件がそろっていれば就業規則の効力に影響はありません。
- 〔昭和23年基発735号・1575号〕組合がわざと意見を出さない、意見書に署名・記名押印しない場合でも、意見を聴いたことが客観的に証明できれば、監督署は届出を受理する扱いです。
ひっかけ注意90条で必要なのは「意見を聴くこと」だけです。「過半数代表者の同意を得なければならない」「協議して決定しなければならない」とあれば誤りです。この手続の狙いは、労働者の集団としての意見を聴かせることで、規則の中身を合理的なものに近づける点にあります。
暗記絶対的は「時間・賃金・退職(解雇の事由を含む)」。相対的は8グループ(退職手当、臨時の賃金等、負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰制裁、全員共通ルール)。意見聴取は「聴くだけ・反対でも有効・出さなくても証明できれば受理」。
覚え方「とき(時間)・かね(賃金)・さよなら(退職)は必ず書く」……絶対的必要記載事項は、①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇など ②賃金の決定・計算・支払の方法、締切り・支払の時期、昇給 ③退職(解雇の事由を含む)の3つ(89条1号〜3号)。退職手当や臨時の賃金、表彰・制裁などは、制度を設けるなら書く。
- とき:始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇など
- かね:賃金の決定・計算・支払の方法、締切り・支払の時期、昇給
- さよなら:退職(解雇の事由を含む)
- 退職手当
- 臨時の賃金など
- 表彰・制裁の種類と程度

ロウ先生とき・かね・さよならは必ず書きます。