労働基準法 ・ 第13章 寄宿舎・監督・書類・罰則
13-7付加金と請求権の時効第114条・第115条
【114条】裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から5年以内にしなければならない。
【115条1項】この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、その他の請求権(この法律の規定による災害補償の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
【115条2項】この法律の規定による災害補償の請求権は、これを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。ただし、この法律の規定による災害補償の原因である事故に係る疾病が、その性質上、第75条第1項、第76条第1項、第77条、第79条又は第80条に規定する災害補償の事由に該当するものかどうかを容易に判断することができない疾病として政令で定めるものである場合には、当該災害補償の請求権については、この項本文中「2年間」とあるのは、「5年間」とする。
ポテふだんのお給料が払われなかったときも、付加金で倍もらえるんですよね?
ロウ先生付加金の対象は、解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年休の日の賃金の4つだけです。24条の賃金は対象外です。
ポテ監督署が「同じ額を上乗せして払え」と命じるんですか?
ロウ先生命じるのは裁判所です。訴える前に会社が全額を払い終えていれば、付加金は請求できません。
ポテなるほど!「同額おかわり」は、裁判所の窓口だけのメニューなんですね!
この節では、払ってもらえなかったお金を取り戻す場面のルールを二つ学びます。一つは、払わなかった会社にペナルティとして上乗せ金を払わせる「付加金」。もう一つは、いつまでに請求しないと権利が消えるかという「時効」です。
付加金(114条):払わなかった分と同じ額をもう一度
付加金は、一定の手当を払わなかった会社に対し、裁判所が未払額と同じ額を上乗せして払うよう命じる制度です。未払いが100万円なら、未払分100万円に加えて付加金100万円、最大で合計200万円の支払いを命じられることになります。「払わないほうが得」という計算を成り立たせないための仕組みです。
対象は次の4つに限られます。
- 解雇予告手当(20条)
- 休業手当(26条)
- 時間外・休日・深夜の割増賃金(37条)
- 年次有給休暇の日の賃金(39条9項)
請求できるのは、違反があった時から5年以内です。ただし当分の間は3年とされています。この期間は時効ではなく除斥期間と解されています。
| 消滅時効 | 除斥期間 | |
|---|---|---|
| 期間の進行を止める手段 | 完成猶予・更新がある(裁判を起こすなど) | ない |
| 当事者の主張(援用) | 権利を消すには原則として援用が必要 | 援用がなくても期間がたてば当然に消える |
判例で確認する
〔細谷服装事件・最高裁昭和35年3月11日判決〕は、付加金の支払義務がいつ生じるかを示しました。結論は次のとおりです。
- 付加金は、違反があった瞬間に自動的に発生するものではありません。
- 労働者の請求を受けて、裁判所が支払いを命じたときに初めて義務が生じます。
- そのため、支払いが期限に遅れても、労働者が裁判所に訴える前に会社が全額を払い終えていれば、付加金はもう請求できません。
ひっかけ注意付加金を命じるのは裁判所です。監督署長は命じられません。また、ふだんの給料(24条の賃金)の未払いは対象外です。「24条違反にも付加金」という選択肢は誤りです。
請求権の時効(115条):何年で消えるか
時効の期間は、どの権利かで分かれます。どれも「権利を使えるようになった時から」数えます。
| 権利 | 期間 |
|---|---|
| 賃金(退職手当を除く) | 5年。ただし当分の間3年 |
| 退職手当 | 5年(経過措置なし) |
| 災害補償の請求権(2項) | 2年。ただし政令で定める疾病によるものは5年 |
| その他の請求権(年休など) | 2年 |
「その他の請求権」には、年次有給休暇を取る権利も含まれます〔昭和22年基発501号〕。つまり、使わなかった年休は翌年度までは繰り越せますが、2年で消えます。
解雇予告手当は少し特殊です。予告手当は解雇を言い渡すときに払わなければ解雇の効力が生じないものと解されるため、ふつうは時効の問題にならない、とされています〔昭和27年基収1906号〕。
ひっかけ注意年休そのもの(休む権利)は2年です。一方、年休を取った日に払われるべき賃金を請求する権利は「賃金」なので5年(当分の間3年)です。退職手当は経過措置がなく、5年のままです。
具体例で考える
建設会社のL社で、Mさんの残業代が長く払われていませんでした。Mさんは退職後、2027年10月に未払残業代を請求したいと考えています。
- 残業代は賃金なので、時効は当分の間3年です。それぞれの給料日から3年を過ぎた月の分は、時効で消えている可能性があります。
- 残業代(37条)は付加金の対象です。裁判を起こし、違反から3年以内に請求すれば、裁判所が同じ額の付加金を命じることがあります。
- 裁判を起こす前にL社が全額を払ってしまえば、付加金は請求できなくなります。
- 退職金に未払いがあれば、そちらは5年まで請求できます。
法改正労災保険法等の改正(令和8年法律第60号、令和9年4月1日施行)で、災害補償の請求権が1項から外れて2項に移りました。災害補償の請求権は原則として2年のままですが、業務によるものかどうかの判断がむずかしい政令で定める疾病(厚生労働省の改正法の概要では脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病が想定されています)については5年になります。労災保険法42条の時効と同じ見直しです。
暗記付加金=4つ(20・26・37・39条9項)、裁判所が命じる、違反から5年(当分3年)、除斥期間。時効=賃金5年(当分3年)、退職手当5年、災害補償・年休2年(政令の疾病は令和9年4月から5年)。
覚え方「予告・休業・割増・年休、払わなかった4つのお金には“おまけ”(付加金)がつく」……付加金の対象は、解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年休の日の賃金の4つ(114条)。裁判所が労働者の請求で命じ、違反から5年(当分の間3年)以内に請求する。この期間は除斥期間。