労働基準法 ・ 第2章 誰に・どこに適用されるか ― 適用範囲と基本用語
2-3「労働者」にあたるかどうかの判断第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
ポテ契約書に「業務委託」って書いてあれば、労働者じゃないってことですよね!
ロウ先生契約書のタイトルでは決まりません。指揮命令を受けて働き、受け取るお金が働いたことへの対価なら労働者です。この関係を「使用従属性」といいます。
ポテえっ、そうなの!?じゃあ「取締役」の名刺があれば、絶対に労働者じゃない?
ロウ先生代表取締役は労働者に当たりませんが、それ以外の取締役は、使用従属関係があれば労働者になることがあります。
ポテなるほど!包み紙に「メロンパン」って書いてあっても、中身で判断ってことですね!
労基法が守るのは「労働者」です。ですから、ある人が労働者かどうかで、守られるか守られないかが丸ごと決まります。9条はその入口の定義です。
条文から読み取れる3つの条件
- 適用される事業や事務所で働いていること
- その事業に「使用される」こと
- 働いた見返りに「賃金」を受け取っていること
「職業の種類を問わず」とあるので、正社員かパートか、肉体労働か事務かは関係ありません。
きちんとした契約書がなくても、事業に使用されて賃金を受けているという実態があれば労働者です。反対に、いま事業に使用されていない人は労働者にあたりません。失業して職を探している人は、以前は労働者だったとしても、労基法の労働者にはあたりません。失業者まで含めて考えるのは、労働組合法の労働者です。
中心になる考え方は「使用従属性」
2と3をまとめて、実務では「使用従属性」があるかどうかを見ます。中身は二つです。
- 相手の指揮命令を受けて働いているか(指揮監督下の労働)
- 受け取るお金が、働いたことそのものへの対価になっているか(報酬の労務対償性)
大切なのは、契約書のタイトルでは決まらないことです。「業務委託契約」「請負契約」と書いてあっても、働き方の中身が会社の指示で動く従業員と同じなら、労働者と判断されます。
判断の手がかり
使用従属性は、次のような事情を一つずつ確かめ、全体を見て判断します。どれか一つで決まるものではありません。
| 確かめること | 労働者に傾く事情 | 労働者から遠ざかる事情 |
|---|---|---|
| 仕事の依頼を断れるか | 断る自由がない | 自由に断れる |
| やり方への指示 | 手順まで細かく指示される | 結果だけ求められる |
| 時間と場所 | 勤務時間・場所が決められている | いつどこでやってもよい |
| 代わりの人 | 本人以外がやることは許されない | 他人に任せてもよい |
| 道具や経費 | 会社の機材を使う | 高価な機材を自分で持ち、費用も負担 |
| 報酬の額と計算 | 時間給・日給で、他の従業員と同程度 | 成果ごとの代金で、従業員よりかなり高い |
| 専属かどうか | 他社の仕事は事実上できない | 複数の取引先と仕事をしている |
| 税金・保険料 | 給与として源泉徴収し、社会保険料も控除 | 事業所得として本人が申告 |
具体例で考える
デザイナーの山本さんは、広告会社B社と「業務委託契約」を結んでいます。実際には、平日9時から18時までB社のオフィスに座り、B社の端末を使い、課長から毎朝その日の作業を割り振られています。報酬は月額固定で、他社の仕事は禁止されています。
このように指示・時間・場所・道具・専属のどれもが会社側にあるなら、契約の名前に関係なく、山本さんは労基法上の労働者と判断される可能性が高いです。
反対に、自宅で自分のパソコンとソフトを使い、納期だけ決めて作品単位で代金を受け取り、ほかの会社からも仕事を受けているなら、労働者性は否定される方向に働きます。
行政解釈と裁判例:労働者とされたもの
- 工場長や部長として働く重役〔昭和23年基発461号〕:法人の役員でも、業務を執行する権限や代表権を持たず、部長などの立場で賃金を受けているなら労働者です。
- 共同経営の出資者〔昭和23年基発498号〕:お金を出していても、実態として指示を受けて働き、賃金をもらっているなら労働者です。
- 新聞配達人〔昭和22年基発400号〕:報酬が配った部数で決まる出来高払いでも、労働者に当たります。
- 研修医〔関西医科大学研修医事件・最高裁平成17年6月3日判決〕:臨床研修には教育の面もあります。それでも、指導医のもとで医療行為などに携わることは病院のための労務提供という面を必ず持つとされました。病院側の指揮監督のもとで行っていると評価できる限り、労働者に当たるとされています。
行政解釈と裁判例:労働者とされなかったもの
- 業務執行権や代表権を持つ役員〔昭和23年基発14号〕
- 労働委員会の委員〔昭和25年基収2414号〕、非常勤の消防団員〔昭和24年基収3306号〕、競輪の選手〔昭和25年基収4080号〕
- 同居の親族〔昭和54年基発153号〕。ただし2-2で見た例外があります。
- 実習中の学生・インターンシップ〔昭和57年基発121号、平成9年基発636号〕:見学や体験が中心で、指揮命令を受ける関係にない場合は労働者ではありません。ただし、実際に生産活動に入り、その成果が会社のものになるなど使用従属関係があれば、労働者になります。
- 下請負人〔昭和23年基発14号、昭和63年基発150号〕:自分の仕事として注文主から独立して処理しているなら、本人が現場で作業していても労働者ではありません。
- 大工〔昭和23年基収4281号ほか〕:農家や工場が建物の修理を頼む場合、請負であることが多いです。もっとも、雇用契約で使用従属関係があれば労働者になります。
- トラック持込みの運転手〔横浜南労基署長(旭紙業)事件・最高裁平成8年11月28日判決〕:自分のトラックを持ち込み、自分の損得の責任で運送をしていた運転手について、労働者には当たらないとされました。時間や場所の縛りがゆるく、報酬の払い方や税・保険の扱いからも労働者と見るべき事情がないことが理由です。
芸能タレントは、①本人の個性が重要で他人に代わりがきかない、②報酬が稼働時間で決まらない、③プロダクションとの関係で時間の拘束がない、④雇用契約ではない、の4つすべてにあてはまれば、労働者にあたりません〔昭和63年基収355号〕。
ひっかけ注意「代表権のない取締役は労働者ではない」とする選択肢は誤りです。代表取締役は労働者に当たりませんが、それ以外の取締役は、使用従属関係が認められる範囲で労働者になることがあります。
ポイント出来高払いかどうか、出資しているかどうか、役員の肩書きがあるかどうかは、それだけでは決め手になりません。問題文の事情を「指示を受けているか」「対価として払われているか」の二つにふり分けて読むと判断しやすくなります。
覚え方「さしず(指図)と、ごほうび(対価)で、労働者」……9条の労働者かどうかは、①相手の指揮命令を受けて働いているか、②受け取るお金が働いたことそのものへの対価になっているか(使用従属性)を、契約の名前ではなく実態で判断する。出来高払いか、出資しているか、役員の肩書きがあるかは、それだけでは決め手にならない。
- ○相手の指揮命令を受けて働いているか(さしず)
- ○お金が働いたことそのものへの対価か(ごほうび)
- ×契約書の名前(業務委託・請負など)
- ×出来高払いかどうか(それだけでは決まらない)
- ×出資しているかどうか(それだけでは決まらない)
- ×役員の肩書きがあるか(それだけでは決まらない)

ポテ包み紙じゃなくて中身で判断!