労働基準法 ・ 第2章 誰に・どこに適用されるか ― 適用範囲と基本用語
2-5「賃金」に含まれるもの・含まれないもの第11条
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
ポテ休業手当も休業補償も、名前がそっくりだから両方とも賃金ですよね?
ロウ先生26条の休業手当は賃金ですが、76条の休業補償は賃金ではありません。
ペン社長いいこと思いついたぞ!結婚祝金は就業規則にきっちり書くけど、社長の「気持ち」だから賃金じゃないことにしよう!
ロウ先生就業規則で支給の条件がはっきり決まっていれば、名前に関係なく賃金です。
ポテなるほど!「おまけ」って書いてあっても毎回必ず付くなら、それはもう定食の一部ですね!
労基法には賃金の払い方(24条)、平均賃金(12条)、割増賃金(37条)など、お金に関するルールがたくさんあります。そのすべての前提になるのが、11条の「何が賃金か」という定義です。ここで賃金に入らないとされたものには、それらのルールがかかりません。
判断の基準は二つ
条文のキーワードは「労働の対償」と「名称の如何を問わず」です。手当と呼ぼうが祝金と呼ぼうが、名前では決まりません。実際には、次の二つの問いで考えます。
- 使用者に払う義務があるか。気まぐれや好意で払うもの(任意的・恩恵的なもの)ではないか。
- 就業規則・労働協約・労働契約などで、いつ・いくら払うかがあらかじめ決まっているか。
この二つを満たし、労働者が権利として受け取れるものは、名前に関係なく賃金です〔昭和22年発基17号〕。
賃金から外れやすい三つのタイプ
| タイプ | 具体例 | 賃金になる場合 |
|---|---|---|
| 任意的・恩恵的なもの | 結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、退職金 | 就業規則などで支給の条件がはっきり決まっていれば賃金〔昭和22年発基17号、昭和25年基収130号〕 |
| 福利厚生としてのもの | 社宅の貸与、食事の提供 | 本来お金で払うべきものを現物で渡している場合など(下の「住まい」「食事」を参照) |
| 実費の弁償 | 出張旅費、社用で私有車を使ったときの走行距離に応じたガソリン代 | 原則として賃金にならない〔昭和28年基収6212号〕 |
具体例で考える
運送会社D社の就業規則には「社員が結婚したときは5万円を支給する」と書かれています。この結婚祝金は、条件と金額が決まっており、会社に払う義務があります。ですから賃金です。
一方、E社には規定がなく、社長がその都度「おめでとう」とポケットマネーの感覚で包んでいます。こちらは恩恵的な給付なので賃金ではありません。同じ「結婚祝金」でも、扱いが分かれるわけです。
個別の扱いを一覧で
| 賃金になるもの | 賃金にならないもの |
|---|---|
| 基本給、時間外・休日・深夜の手当 | 休業補償(76条) |
| 家族手当・扶養手当・子供手当 | 支給条件が決まっていない退職金・結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金・出産見舞金 |
| 日直・宿直の手当 | 解雇予告手当 |
| 役職手当・管理職手当、技能手当、特殊作業手当、奨励手当、物価手当、調整手当、地域手当、教育手当、別居手当 | 出張旅費・宿泊費、赴任手当 |
| 賞与 | 制服(作業衣) |
| 通勤手当、通勤定期券・回数券 | 会社が全額負担する生命保険の掛金 |
| 皆勤手当 | 役員報酬 |
| さかのぼって昇給したときの差額 | 福利厚生として貸す住宅・提供する食事 |
| 年次有給休暇の日の賃金、休業手当(26条) | ストック・オプションで得た利益 |
| 本人負担分の所得税・雇用保険料・社会保険料を会社が肩代わりした額 | 客が労働者に直接渡すチップ |
| 会社がサービス料として集め、労働者に分配するチップ | 私有車の社用利用に払う走行距離分のガソリン代 |
ひっかけ注意休業「手当」(26条)は賃金、休業「補償」(76条)は賃金ではありません。名前が似ているので入れ替えて出題されます。また、通勤定期券は現物でも賃金に入ります。
行政解釈で押さえる細かい点
- 住まい〔昭和22年発基17号、昭和30年基発6851号〕:社宅を貸す利益は、原則として賃金ではありません。ただし、社宅に入らない人に住宅手当などのバランスをとる給与を払っているなら、社宅の利益は賃金になります。
- 家賃を取っている場合〔昭和22年基発452号〕:労働者から代金を取る社宅は原則として賃金ではありません。ただし、取っている額が実際の費用の3分の1以下なら、その額と「実際の費用の3分の1」との差が賃金とみなされます。
- 食事〔昭和30年基発644号〕:次の三つをすべて満たす食事の提供は賃金になりません。(1)食事を出すために賃金を減らしていない、(2)労働条件の内容になっていない、(3)その利益の評価額が社会通念上わずかである。
- 休業補償の上乗せ〔昭和25年基収3432号〕:就業規則で平均賃金の60%を超えて払っている休業補償は、上乗せ部分を含めて全額が賃金ではありません。
- チップ〔昭和23年基発1528号〕:客から直接もらうものは賃金ではありません。会社がサービス料として受け取り、それを労働者に配るなら賃金です。
- ストック・オプション:税法上の扱いとは関係なく、労基法上の賃金には当たりません。
裁判例:働かなかった時間の賃金
〔水道機工事件・最高裁昭和60年3月7日判決〕では、会社が業務命令で出張や外勤を命じた時間に、労働者がそれを拒んで社内で内勤をしていました。最高裁は、これは契約の趣旨に沿った労務の提供ではなく、会社が内勤の労務を受け取ったともいえないと判断しました。そのため、その時間分の賃金を払う義務はないとされています。
〔三菱重工業長崎造船所事件・最高裁昭和56年9月18日判決〕では、ストライキの期間中に家族手当を削ることが争われました。最高裁は、スト期間中にどの賃金を削れるかは、労働協約などの定めや労働慣行の趣旨に照らして個別に判断するとしました。そのうえで、家族手当の削減が就業規則などに定められて異議なく続けられ、労働慣行として成立している以上、違法ではないとしています。
ポイント迷ったら「会社は払わないと約束違反になるか」を考えてください。約束違反になるなら賃金、払うかどうかが会社の気持ち次第なら賃金ではない、という見方でほとんどの問題が解けます。実費弁償は「仕事の経費を立て替えた分の精算」なので別扱いです。
覚え方「手当(てあて)は『て』に入る給料、補償(ほしょう)は『ほ』か扱い」……26条の休業手当は賃金に入り、76条の休業補償は賃金に入らない。結婚祝金・退職金などは、就業規則などで支給条件がはっきり決まっていれば賃金。出張旅費などの実費弁償や、客から直接もらうチップは賃金ではない。
- 休業手当(26条)
- 支給条件が決まった結婚祝金・退職金
- 通勤定期券(現物でも)
- 会社が集めて分配するチップ
- 休業補償(76条)
- 支給条件が決まっていない祝金など
- 出張旅費などの実費弁償
- 客から直接もらうチップ

ロウ先生手当は「て」に入る、補償は「ほ」か、です