労働基準法 ・ 第3章 雇い入れから退職まで ― 労働契約のルール
3-5違約金や損害賠償額をあらかじめ決めることの禁止第16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
ペン社長いいこと思いついたぞ!「3年以内に辞めたら研修費として一律40万円」と約束させれば、みんな辞めないぞ!
ロウ先生先に金額を決めておくその約束は、16条違反です。
ポテえっ、じゃあ会社は社員に損害賠償を一切請求できないんですか?
ロウ先生いいえ。禁じられているのは、金額をあらかじめ決めておく約束です。実際に生じた損害の賠償を求めることまでは禁じていません。
ペン社長……じゃあ40万円の貼り紙ははがして、研修はおいしいお弁当つきにするぞ!
第16条は、お金の脅しで労働者を職場に縛りつけることを防ぐ条文です。「途中で辞めたら50万円払え」と約束させられたら、つらくても辞められません。戦前にはこうした約束で働く人が身動きをとれなくなる例がありました。その再来を封じています。
禁止される2つの約束
| 違約金 | 損害賠償額の予定 | |
|---|---|---|
| 中身 | 契約を守らなかったら、会社に損害が出たかどうかに関係なく、決めた金額を払わせる | 契約を守らなかったときの賠償額を、実際の損害がいくらかに関係なく、最初から一定額に決めておく |
| 例 | 「1年以内に辞めたら30万円」 | 「遅刻1回につき損害として1万円」 |
どちらも「実際の損害と切り離して、先に金額を決める」という点が共通しています。そこが禁止の核心です。
禁じられているのは、こうした約束をすること自体です。実際にお金を取ったかどうかに関係なく、契約を結んだ時点で違反になります。また、契約違反による賠償に限らず、不法行為を原因とする賠償についても、額をあらかじめ決めておくことは許されません。
具体例で考える
架空の美容室「ルミエール」は、新人の吉田さんに次のように言いました。
- 「3年以内に辞めたら、研修費として一律40万円を払ってもらう」
これは先に金額を決めた約束なので、16条違反です。 - 「お客さんの高価なバッグを不注意で汚したので、実際にかかったクリーニング代を負担してほしい」
現に生じた損害について賠償を求めているだけなので、16条の問題にはなりません〔昭和22年発基17号〕。
ひっかけ注意16条は、損害賠償を求めること自体を禁じてはいません。「労働者に損害賠償を請求することはできない」という選択肢は誤りです。禁じられているのは、金額をあらかじめ決めておく約束のほうです。
本人以外との約束もだめ
会社が労働者の親や身元保証人と「本人が契約を破ったら、あなたが違約金を払う」と約束することも、16条の禁止に含まれます。本人がサインしていなくても、家族を通じて同じ縛りが生まれるからです。
行政解釈と裁判例
退職金の減額が問題になった有名な最高裁判決があります〔三晃社事件・最高裁昭和52年8月9日判決〕。
- ある会社の規則では、退職後に同業他社へ移った人の退職金は、自己都合退職の半分とされていました。
- 最高裁は、退職金には長年の功労に報いる性格もあることから、この扱いに合理性がないとはいえない、と判断しました。
あらかじめ違約金を取るのではなく、退職金の支給基準の問題として扱われた点を押さえておきましょう。
暗記違反すると6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。強制労働の禁止(5条)ほど重くはありません。
覚え方「値札(先に決めた金額)はダメ、レシート(実際の損害)ならOK」……16条が禁じるのは、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておいたりする約束。実際に生じた損害の賠償を求めることは禁じられていない。親や身元保証人と同じ約束をすることも禁止。罰則は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。
- 違約金を定める
- 損害賠償額を予定する
- 親や身元保証人と同じ約束をする
- 実際に生じた損害の賠償を求める

ペン社長貼り紙ははがして、お弁当つきにするぞ!
ポイント迷ったら「その金額は実際の損害に合わせて後から決まるのか、先に決まっているのか」を確かめます。後から決まるなら適法、先に決まっていれば違法です。