労働基準法 ・ 第3章 雇い入れから退職まで ― 労働契約のルール
3-6前貸しの借金と賃金の相殺禁止第17条
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
ポテ会社が社員にお金を貸すこと自体が、17条で禁止されてるんですよね?
ロウ先生貸すこと自体は禁止されていません。禁止されるのは、働くことを条件にした前貸しを賃金と相殺すること、つまり給料と差し引きすることです。
ポテじゃあ、ぼくが「今月の給料で返したい」って自分から申し出たら?
ロウ先生労働者が自分の意思で相殺することまでは禁じられていません。
ポテなるほど!給料と差し引くのは、ぼくのほうから言い出すならOKってことですね!
第17条は、「借金を返し終わるまで辞められない」という状態を作らせないための条文です。会社がまとまったお金を先に貸し、毎月の給料から差し引いて回収する。この形をとると、借金が働く人を職場につなぎとめる鎖になってしまいます。そこで、お金の貸し借りと働くことを切り離しました。
ことばの確認
「前貸の債権」とは、働くことを条件に使用者から借りて、将来の給料で返すと約束したお金のことです。契約を結ぶときに借りたものも、働き始めてから借りたものも含みます〔昭和22年発基17号、昭和33年基発90号〕。代表例が「前借金」です。
本人の信用を見込んだ融資や、給料日前の賃金の前払いのように支払の時期を早めるだけで身分的な拘束を生まないものは、前貸の債権にあたりません〔昭和33年基発90号〕。また、17条には24条1項ただし書のような労使協定による例外がなく、協定を結んでも使用者の側から相殺することはできません。
具体例で考える
架空の工場「ひかり製作所」が、入社前の小林さんに引っ越し代として30万円を貸しました。
- 「その代わり、うちで働いて毎月の給料から3万円ずつ差し引いて返してもらう」
これは働くことを条件にした前貸しを賃金と相殺するものなので、17条違反です。 - 小林さんが自分から「今月の給料で返したい」と申し出て、相殺に応じた。
労働者が自分の意思で相殺することまでは禁じられていません〔昭和63年基発150号〕。
行政解釈と裁判例
| 場面 | 17条との関係 |
|---|---|
| 労働協約や労働者の申出に基づき、生活必需品の購入などのための資金を貸して、後から給料で分割して差し引く | 貸付の条件を総合的にみて、働くことが条件になっていないことが極めて明白なら、17条は適用されない〔昭和23年基収3633号、昭和63年基発150号〕 |
| 介護休業中の社会保険料(本人負担分)を事業主が立て替え、復職後の給料から差し引く | ひどい高金利が付くなど、働くことが条件と認められる場合を除き、通常は17条に触れない。ただし給料からの控除になるので、24条の労使協定が必要〔平成3年基発712号〕 |
| 上の立替分を、一定年数働けば返さなくてよいとする扱い | 労基法上の問題は生じない〔平成3年基発712号〕 |
ひっかけ注意17条は、会社がお金を貸すこと自体を禁止してはいません。禁止の対象は「働くことを条件とした貸付」と「賃金との相殺」の組み合わせです。働くことが条件になっていない貸付なら、相殺の問題は24条(賃金の控除)のルールで考えます。
暗記罰則は16条と同じく、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。キーワードは「労働することを条件とする」。
覚え方「貸し(かし)はOK、枷(かせ)はNG」……17条が禁じるのは、前借金その他労働することを条件とする前貸しの債権と賃金を相殺すること。お金を貸すこと自体や、労働者が自分の意思で相殺することは禁じられていない。罰則は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。
- 1働くことを条件に先に貸す貸すこと自体は禁止されない
- 2賃金と相殺するここを17条が禁止(労働者が自分の意思で相殺するのは対象外)
- 3返すまで辞められないこの状態を作らせない

ポテ貸しはOK、枷はNG!