労働基準法 ・ 第3章 雇い入れから退職まで ― 労働契約のルール
3-7強制貯金の禁止と任意の貯蓄金管理第18条
1. 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
2. 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。
3. 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合においては、貯蓄金の管理に関する規程を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとらなければならない。
4. 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるときは、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす。
5. 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者がその返還を請求したときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。
6. 使用者が前項の規定に違反した場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる。
7. 前項の規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。
ポテ通帳を預かるだけなら、労使協定はいらないですよね?預かるだけだし!
ロウ先生通帳保管でも、協定を結んで労働基準監督署長に届け出る必要があります。一方、管理規程は作って周知すればよく、届出はいりません。
ポテえっ、そうなの!?じゃあ社内預金の利子は、会社の気分で0%でも?
ロウ先生下限は年5厘、つまり0.5%です。それより低くしても、5厘で利子を付けたものとして扱われます。
ポテなるほど!ほねを預けたら、ちゃんとおまけのほねもついてくるんですね!
第18条は、給料の一部を無理やり貯金させて、辞めにくくしたり会社の資金繰りに回したりすることを防ぐ条文です。お金を会社に握られていると、労働者は簡単には去れません。
この条文は2つの顔をもっています。1項は「強制」をきっぱり禁止します。2項以下は、本人が自分から頼んだ「任意」の預け入れなら、厳しい条件つきで認めます。
1項:禁止される強制貯金
「労働契約に附随して」とは、雇い入れや雇用を続ける条件として、という意味です。次の2つが禁止されます。
- 貯蓄の契約をさせる:銀行や郵便局などとの貯金の契約を結ばせること。預け先を会社が指定したかどうかは問いません。
- 貯蓄金を管理する契約をする:会社自身が預かる、または通帳を預かる約束を、雇用の条件として結ぶこと。
1項に違反すると、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
2項以下:任意の貯蓄金管理の2つの型
| 項目 | 社内預金 | 通帳保管 |
|---|---|---|
| しくみ | 会社が自分で労働者の預金を受け入れる(条文の「預金の受入」) | 労働者個人の名義で金融機関に預け、その通帳や印鑑を会社が預かる |
| 労使協定の締結と監督署長への届出 | 必要 | 必要 |
| 管理規程の作成と周知 | 必要 | 必要 |
| 利子 | 会社が付ける(下限あり) | 会社は付けない(金融機関が付ける) |
| 毎年の状況報告 | 必要 | 不要 |
| 請求があれば遅れずに返す | 必要 | 必要 |
ひっかけ注意通帳を預かるだけなら協定はいらない、というのは誤りです。通帳保管でも協定の締結と届出が必要です。一方、管理規程は作って周知すればよく、監督署長への届出はいりません〔昭和63年基発150号〕。「協定は届出、規程は届出不要」と区別しましょう。
社内預金の協定に書くこと(労基則5条の2)
- 預金できる人の範囲
- 1人当たりの預金額の上限
- 利率と利子の計算方法
- 預け入れと払い戻しの手続
- 預金を守る方法(保全措置)
管理規程には、社内預金なら協定の事項とその具体的な取扱いを書きます。通帳保管なら、預け先の金融機関名、預金の種類、通帳の保管方法、出し入れの取次ぎ方法などを書きます〔昭和63年基発150号〕。
具体例で考える
架空の食品会社「みどり食品」が、社員の希望を受けて社内預金制度をつくることにしました。
- まず、過半数労働組合(なければ過半数代表者)と書面で協定を結び、所轄の労働基準監督署長に届け出ます。
- 管理規程を作り、作業場に備え付けるなどして社員に知らせます。
- 利率は会社が決めますが、省令の下限である年5厘(0.5%)を下回る利率にしても、5厘で利子を付けたものとして扱われます。上限の決まりはありません。
- 毎年、3月31日までの1年間の管理状況を、4月30日までに監督署長へ報告します。
- 社員の伊藤さんが「全額返してほしい」と言えば、遅れずに返します。返さないまま続けることが社員の利益を著しく害するときは、監督署長が管理の中止を命じることができ、命じられた会社はすぐに預金を返さなければなりません。
行政解釈と裁判例
- 給料の10%、5%など一定の割合で貯金額を決めること自体は違法ではありません。ただし、貯金するかどうかの自由と、いつでも返してもらう自由が守られていることが前提です〔昭和33年基発90号〕。
- 派遣で働く人の預金を受け入れられるのは、雇い主である派遣元だけです。派遣先は労働契約の相手ではないので受け入れられません〔昭和61年基発333号〕。
- 商店会などの第三者が、労働者の給料の一部と使用者の拠出を元手に積み立てる退職積立金は、貯蓄金にあたります。本人が望まなくても加入せざるを得ないなら、18条が禁じる強制貯金になります〔昭和25年基収2048号〕。
暗記利子の下限は年5厘。報告は「3月31日まで1年分を4月30日まで」。協定の届出は社内預金・通帳保管とも必要、規程の届出はどちらも不要。
覚え方「利子は五輪(5厘)の輪っか、報告は年度末で締めてひと月後」……社内預金の利子の下限は年5厘(0.5%)。社内預金では、毎年3月31日までの1年間の管理状況を4月30日までに労働基準監督署長へ報告する(通帳保管は報告不要)。協定の届出は社内預金・通帳保管とも必要、管理規程の届出はどちらも不要。