労働基準法 ・ 第3章 雇い入れから退職まで ― 労働契約のルール
3-8解雇してはいけない期間第19条
① 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
ポテ本人に重大な落ち度があれば、労災で休んでいる最中でも懲戒解雇できますよね?
ロウ先生できません。業務上の傷病で療養のため休業している期間とその後30日間は、懲戒解雇でも例外になりません。
ポテえっ、そうなの!?じゃあ通勤途中の事故で休んでいる人も同じですか?
ロウ先生通勤災害は業務上ではないので、19条の保護はありません。
ポテなるほど!会社への行き帰りのけがは、このバリアの外なんだ……自転車、気をつけます!
仕事でけがをして休んでいる人や、出産の前後で休んでいる人は、次の仕事を探せる状態ではありません。そんなときに職を失えば、生活が一気に崩れます。19条は、この「いちばん弱い時期」だけは会社が労働者を手放せないようにするルールです。
解雇の理由がどれほど正当でも、この期間に出した解雇は無効になります。ここが「理由の良し悪し」を問う解雇権濫用の考え方との大きな違いです。
どの期間が守られるのか
| きっかけ | 解雇できない期間 | 対象にならない例 |
|---|---|---|
| 業務上のけが・病気 | 療養のため休業している期間+その後30日間 | 通勤災害による休業/治療中でも休まず出勤している場合 |
| 出産(65条の産前産後休業) | 休業している期間+その後30日間 | 産前6週間(多胎14週間)に入っても、本人が請求せず働いている場合 |
キーワードは「休業している」ことです。業務上の傷病でも、出産前後でも、実際に休んでいなければ解雇制限はかかりません。
出産前後の数え方
産前の休業は、労働者が請求して初めて会社に与える義務が生じます。そのため、予定日の6週間前に入っても、本人が希望して働き続けているなら解雇制限の対象外です。
一方、出産が予定日より遅れた場合、予定日から実際の出産日までの休みも産前休業として扱われ、解雇制限が続きます。
産後は、出産の翌日から8週間が休業期間です。ただし産後6週間を過ぎると、本人が請求し医師が支障なしと認めた業務なら働けます。この制度で復帰した人は、復帰した時点で「休業する期間」が終わります。
ポイント「その後30日間」をどこから数えるかは、休業が終わった日で決まります。産後8週間フルに休んだ人は8週間の経過後から、6週間経過後に請求して復帰した人は働き始めた日から、30日をカウントします。
具体例で考える
製パン工場のAさんは、ライン作業中に手首を骨折し、4月1日から6月30日まで休業しました。7月1日に職場へ戻っています。
- 4月1日〜6月30日 … 休業中なので解雇できません
- 7月1日〜7月30日 … 復帰後の30日間なので、やはり解雇できません
- 7月31日以降 … 19条の制限は外れます(ただし解雇予告や解雇権濫用のルールは別に守る必要があります)
同じ工場のBさんは、通勤途中の自転車事故で同じく3か月休みました。こちらは業務上ではなく通勤災害なので、19条の保護はありません。
行政解釈と裁判例
- 〔昭和24年基発1134号、昭和25年基収1133号〕守られるのは、仕事が原因の傷病(いわゆる労災)で休んでいる人です。通勤災害で休んでいても対象外です。また、業務上の傷病で通院中でも、休まずに出勤しているなら制限は受けません。
- 〔昭和24年基収3806号〕制限期間中は、たとえ本人に重大な落ち度があっても解雇できません。懲戒解雇でも例外にはなりません。
- 〔昭和63年基発150号〕ある事業の完了までを契約期間とする有期契約は、期間満了で自然に終わります。期間満了は解雇ではないので、19条1項の適用はありません。
- 〔昭和26年基収3388号、昭和22年基収2649号〕就業規則で「定年に達した翌日に自動的に雇用が終わる」と明確に定め、実際にそう運用し、従業員にも周知している場合は、定年到達による退職は解雇にあたりません。この場合、解雇制限の問題も生じません。
- 〔大日本印刷事件・最判昭和54年7月20日〕採用内定の取消しは、試用期間中に留保された解約権を使うのと同じように考えます。取り消せるのは、内定の時点では知りえず、知ることも期待できなかった事実が後で判明し、それを理由に取り消すことが客観的に合理的で社会通念上も相当といえる場合に限られます。
- 〔神戸弘陵学園事件・最判平成2年6月5日〕新規採用で契約に期間を設け、その目的が適性を見ることにあるなら、その期間は原則として試用期間とみます。期間の満了で当然に契約が終わるという明確な合意があるなどの特段の事情があれば別です。
解雇を予告した後、その予告期間の途中で業務上の傷病により休業した場合も、19条の制限がかかります。休業が1〜2日程度の軽いものでも同じです〔昭和26年基収2609号〕。また、制限を受けるのは、けがや病気の原因となった業務の事業主です。2つの会社で働く人がX社の業務で負傷したなら、制限を受けるのはX社だけで、事業主が別のY社は対象になりません(19条1項)。
制限が外れる2つの場面
- 打切補償を支払うとき … 業務上の傷病で療養を始めてから3年たっても治らない場合、平均賃金の1,200日分を打切補償(81条)として支払えば、休業中でも解雇できます。療養開始から3年を経過した日に労災保険の傷病補償年金を受けている場合や、その日の後に受けることになった場合も、同じく制限が外れます。
- 天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になったとき … 産前産後のケースも含め、制限が外れます。ただし、会社の自己判断は許されず、所轄の労働基準監督署長の認定が要ります。悪用を防ぐための歯止めです。
暗記「3年・1,200日・認定いらず」が打切補償。認定が必要なのは天災事変などのほうだけ、とセットで覚えましょう。
覚え方「さん(3)ざん療養、いちにー(12)まるまる(00)払って打ち切り」……業務上の傷病で療養を始めてから3年たっても治らないとき、平均賃金の1,200日分の打切補償を払えば解雇制限が外れる(認定は不要)。天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になった場合は、労働基準監督署長の認定が必要。解雇できないのは、業務上の傷病の療養休業期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間。

ロウ先生さんざん療養、いちにーまるまる、です
「やむを得ない事由」にあたるか〔昭和63年基発150号〕
| あたる | あたらない |
|---|---|
| 火災で事業場が焼けた(事業主の故意・重過失による場合は除く) | 経済法令に違反して事業主が身柄を拘束された、機械や資材を没収された |
| 地震で工場が倒れた・類焼した結果、事業が続けられなくなった | 税金を滞納して処分を受け、廃業に追い込まれた |
| 取引先が休業して注文が途絶え、資金繰りに行き詰まった |
また「事業の継続が不可能」とは、事業の全部またはほとんどが続けられない状態を指します。一部の部門を縮小するだけなら該当しません。
背景知識:解雇一般のルールとの関係
解雇全般については、もともと最高裁の判例で「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は権利の濫用として無効」という考え方が確立していました。これが平成16年1月1日に労基法18条の2として条文になり、平成20年3月1日からは労働契約法16条に移っています。労基法に残っているのは、19条の解雇制限と20条の解雇予告という、手続や時期に関するルールです。
ひっかけ注意「労働者の責に帰すべき事由があり、労働基準監督署長の認定を受ければ、業務上の療養休業中でも解雇できる」は誤りです。責に帰すべき事由は20条(予告)の例外であって、19条の解雇制限を外す理由にはなりません。