労働基準法 ・ 第4章 賃金の支払い方 ― 支払のルールと生活の保障
4-1通貨・直接・全額・毎月1回以上・一定期日第24条
給料は、働く人がその月を暮らしていくための元手です。それが品物で渡されたり、誰かに横取りされたり、勝手に差し引かれたり、いつ入るかわからなかったりすると、生活が成り立ちません。24条は、そうした事態を防ぐために「払い方」の決まりを5つ並べた条文です。
1. 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2. 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
ペン社長いいこと思いついたぞ!今月の給料は、うちの自社商品の詰め合わせで払おう!みんな喜ぶぞ!
ロウ先生賃金は通貨で払うのが原則です。現物で払えるのは労働協約に定めがある場合などで、労使協定では足りません。
ポテじゃあ、ぼくの給料を父さんが代わりに受け取りに来たら?
ロウ先生親などの法定代理人にも渡してはいけません。本人が病気で動けず、家族が本人の手足として受け取る「使者」なら認められます。
ペン社長……詰め合わせは給料じゃなくて、差し入れにしておくぞ!
まず全体を一枚で
5つの原則は、1項に3つ、2項に2つ入っています。1項の3つは「何で・誰に・いくら」、2項の2つは「いつ」の話だと整理すると覚えやすくなります。
| 原則 | 守らせたいこと | 主な例外 |
|---|---|---|
| 通貨払い | 現金(日本の通貨)で払う。自社商品や商品券で代えない | 法令・労働協約の定め/本人の同意を得た口座振込み・デジタル払いなど |
| 直接払い | 働いた本人の手に渡す | 本人の「使者」に渡すのは可 |
| 全額払い | 勝手に差し引かない | 法令による控除(税・社会保険料)/労使協定による控除 |
| 毎月1回以上払い | 暦の月ごとに少なくとも1回払う | 臨時の賃金・賞与・労基則8条の手当 |
| 一定期日払い | 支払日を特定しておく | 同上 |
通貨払い ― 現金が基本、振込みは「同意」が条件
ここでいう通貨は、日本で強制通用力のある紙幣と硬貨です。小切手や現物で払うのは原則としてアウトです。
例外として、次のものが認められています。
- 法令に別段の定めがあるとき。ただし、いま現物での支払を認める法令は存在しません。
- 労働協約に定めがあるとき。現物で支給するなら、その品物をいくらと評価するかも協約で決めておく必要があります。また、現物で受け取らせることができるのは、その協約が適用される労働者だけです〔昭和63年基発150号〕。労使協定(過半数代表者との協定)では足りない点に注意してください。
- 本人の同意を得て、省令で決められた確実な方法で払うとき(労基則7条の2)。具体的には、銀行などの預貯金口座への振込み、一定の証券総合口座への払込み、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座への送金(いわゆるデジタル払い)の3つです。
- 退職手当。金額が大きく現金で持ち歩くのは危ないため、本人の同意があれば、銀行が振り出した小切手や銀行が支払を保証した小切手、郵便為替などを渡す方法もとれます。
デジタル払いのしくみ
令和4年11月28日公布の労基則改正で、スマホ決済サービスなどのアカウントへ給料を送る道が開かれました(令和5年4月1日施行)。押さえる点は次のとおりです。
- 会社が一方的に決めることはできず、本人の同意が必要です。
- デジタル払いを選ばせるときは、銀行振込みなど他の方法も選べるようにしたうえで、留意事項を説明して同意をもらいます。
- 受け皿となる業者は、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者に限られます。
指定を受けるための主な条件は、次のようなものです。
- アカウント残高の上限を100万円以下に抑えている(超えたときは速やかに100万円以下に戻す)
- 業者が破綻しても、残高の全額を速やかに支払える保証の仕組みがある
- 不正な引出しなど、本人に落ち度のない損失を補償する仕組みがある
- 最後の入出金から少なくとも10年間は、残高を払い戻せる
- 1円単位で受け取れ、少なくとも毎月1回は手数料なしで現金化できる
口座振込みやデジタル払いを始める手順として、通達は、個々の労働者から書面などで同意を取る、労使で書面などによる協定を結ぶ、支払日には賃金の計算書を渡す、といった運用を求めています〔令和4年基発1128第4号〕。
口座振込みでも、所定の支払日に労働者が引き出せる状態にしておく必要があります。通達は、支払日の午前10時ごろまでに払出しができるようにすることを求めています〔令和4年基発1128第4号〕。
ひっかけ注意「使用者が指定した口座に振り込む」「全員一律でデジタル払いにする」はどちらも誤りです。振込みもデジタル払いも、本人の同意が出発点になります。
直接払い ― 本人以外に渡さない
たとえば、19歳のアルバイトAさんの父親が「息子の給料は私が預かる」と会社に来ても、会社は父親に渡してはいけません。親権者などの法定代理人も、本人から頼まれた任意代理人も、受け取る資格はありません〔昭和63年基発150号〕。
一方で、本人が病気で動けないため妻が代わりに受け取りに来た、という場合は「使者」への支払として認められます。使者は本人の手足として受け取るだけで、自分の判断で動く代理人とは違う、という発想です。
代理人に払ってしまった場合、結果として本人に全額が渡れば、民事上は弁済として扱われることがあります。それでも直接払いに違反した事実は消えないので、刑事責任まで免れるわけではありません(24条1項)。
- 派遣労働者:派遣元が払う給料を、派遣先の担当者が本人に手渡すだけなら違反になりません〔昭和61年基発333号〕。
- 賃金債権を他人に譲った場合:労働者が受取前に給料を受け取る権利を第三者に譲っても、会社は本人に払わなければならず、譲り受けた人が会社に直接請求することはできません〔小倉電話局事件・最高裁昭和43年3月12日〕。
- 差押え:民事執行法による差押えに従って債権者に払う場合や、国税徴収法にもとづく差押えに従い、給料から差し引いた分を税務当局に納める場合は、直接払い違反にはなりません。
全額払い ― 差し引けるのは2つのルートだけ
給料から天引きできるのは、法令が認めるもの(所得税、住民税、社会保険料など)と、労使協定を結んだもの(社宅の家賃、社内預金、組合費など)だけです。この労使協定は、労働基準監督署へ届け出る必要がありません。
協定で差し引けるのは、購買代金、社宅・寮の費用、組合費のように、内容がはっきりしているものに限られます〔昭和27年基発675号〕。社内預金も、協定にもとづいて賃金から控除し、預金として受け入れることが認められています〔昭和52年基発4号〕。現物で支給した分の金額を賃金から控除する扱いは認められていません。
具体例で考える
B社では「遅刻は5分でも30分として給料を減らす」というルールを作りました。実際に働かなかったのは5分なので、残りの25分ぶんを削るのは全額払い違反です〔昭和63年基発150号〕。ただし、このカットを就業規則上の「減給の制裁」として位置づけ、91条の上限の範囲で行うなら、24条の問題にはなりません。
端数の扱いは、次のような処理なら認められています〔昭和63年基発150号〕。
- 月の支払額に100円未満の端数が出たとき、50円未満は切り捨て、50円以上は100円に切り上げる
- 月の支払額に1,000円未満の端数が出たとき、それを翌月の支払日に回して払う
前の月に払いすぎた分を翌月の給料で調整するくらいは、賃金の計算そのものの話であり24条違反とはされていません〔昭和23年基発1357号〕。
さかのぼって昇給を決めたとき、決定の時点ですでに退職していた人には差額を払わないと定めても、全額払いに反するものではないとされています〔昭和23年基収4092号〕。
行政解釈と裁判例
| 論点 | 結論 |
|---|---|
| チェック・オフ〔エッソ石油事件・最高裁平成5年3月25日〕 | 労使協定は、組合費を天引きしても24条違反として処罰されないという効果を持つだけです。実際に天引きするには、組合員一人ひとりからの委任が要り、組合員に天引きを受け入れる義務もありません。 |
| 退職金の放棄〔シンガー・ソーイング・メシーン事件・最高裁昭和48年1月19日〕 | 退職する本人が自分から退職金を放棄すると表明した場合、全額払いの原則がその表明を無効にするわけではありません。ただし、本人の自由な意思によることが明らかでなければなりません。 |
| 調整的相殺〔福島県教組事件・最高裁昭和44年12月18日〕 | 過払い分を後で取り戻すような、正しい賃金額に合わせるための相殺は、時期・方法・金額からみて生活を脅かさない程度なら許されます。 |
| 合意による相殺〔日新製鋼事件・最高裁平成2年11月26日〕 | 本人が自由な意思で相殺に同意し、そう言える合理的な理由が客観的にあれば違反になりません。自由意思かどうかは、厳しく慎重に判断されます。 |
| 賞与の支給日在籍要件〔大和銀行事件・最高裁昭和57年10月7日〕 | 就業規則で「支給日に在籍する者に支給」と決めていれば、支給日前に辞めた人には賞与の請求権が生まれず、全額払い違反にもなりません。 |
毎月1回以上・一定期日 ― 「いつ」をはっきりさせる
「毎月」はカレンダーの月のことです。年俸制で年額が決まっていても、毎月少なくとも1回に分けて払う必要があります。
支払日は「25日」のように日付で決めなくてもかまいません。月給なら「月末」、週給なら「毎週金曜日」のように、日が一つに定まれば足ります。逆に「毎月第3水曜日」のような決め方は、月によって日付が7日の幅で動くので認められません。所定の支払日が休日に当たったときに前後へずらす、と決めておくことは問題ありません。
24条が求めるのは支払の周期と期日を特定することで、締切日から支払日までの期間までは決めていません。ある月の分をその月のうちに払う必要はなく、締切後に一定の期間を置いて払う定めも、不当に長い期間でなければ差し支えありません。
この2つの原則が及ばないのは、臨時に払う賃金、賞与、そして労基則8条が挙げる手当です。いずれも「1か月より長い期間」を物差しにして金額が決まるため、毎月払いになじまない、という共通点があります。
労基則8条 法第二十四条第二項但書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。
一 一箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当
二 一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
三 一箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当
暗記デジタル払いの数字は「残高上限100万円」「払戻しは最後の取引から10年」「手数料なしの現金化は月1回以上」の3つをセットで。
覚え方「通(つう)な直(ちょく)球を、全(ぜん)力で毎(まい)回一定(いってい)に」……24条の賃金支払5原則は、通貨払い・直接払い・全額払い(1項)と、毎月1回以上払い・一定期日払い(2項)。現物給与の例外の根拠は労働協約、控除の例外の根拠は法令か労使協定。
- 通貨払い
- 直接払い
- 全額払い
- 毎月1回以上払い
- 一定期日払い

ロウ先生「通な直球を、全力で毎回一定に」です
ポイント例外の根拠が「労働協約」なのか「労使協定」なのかを原則ごとに確認しましょう。現物給与は協約、天引きは協定です。