労働基準法 ・ 第5章 働く時間の原則 ― 労働時間・休憩・休日・時間外労働
5-936協定で守るべき指針第36条
厚生労働大臣は、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して指針を定めることができる。
第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長及び休日の労働を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。
行政官庁は、第7項の指針に関し、第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
前項の助言及び指導を行うに当たつては、労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない。
ポテ特別条項の理由は「業務上やむを得ないとき」って書いておけば、いつでも使えて便利ですね!
ロウ先生いつでも当てはまる書き方は、指針では認められません。「年度末の決算業務の集中」のように、臨時の事情が読み取れるよう具体的に書きます。
ポテじゃあ指針に合ってない協定は、無効になっちゃうんですか?
ロウ先生法律上の要件を満たしていれば、それだけで無効にはなりません。監督署の助言・指導の対象になります。
ポテなるほど!注文で「なんでもいい」はダメで、ちゃんと「からあげ定食」って言わなきゃってことか!
前の節で見た上限は「これを超えたら違法」という線です。けれども、上限ぎりぎりまで残業させてよいという意味ではありません。そこで、協定を結ぶ労使が目指すべき水準を示したのがこの指針です。告示の正式な題名は次のとおりです。
労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針(平成30年厚生労働省告示第323号。最終改正 令和5年厚生労働省告示第108号)
指針の中身を条ごとに
| 条 | 内容 |
|---|---|
| 第2条 | 残業も休日労働も必要最小限にとどめるべきもの。限度時間を超えないのが前提であることを意識して協定するよう、労使は努めます。 |
| 第3条 | 限度時間の範囲内でも、会社は労働契約法5条の安全配慮義務を負います。週40時間を超えた時間が月45時間を超えて長くなるほど、脳・心臓疾患との関連が強まります。発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月平均でおおむね月80時間を超えると、業務との関連は強いと評価されます。 |
| 第4条 | 業務の区分を細かく分け、どの業務で残業させるのかをはっきりさせます。 |
| 第5条 | 特別条項で限度時間を超える場合は、その事情をできるだけ具体的に書きます。「業務の都合上必要なとき」「やむを得ないとき」のように、いつでも当てはまる書き方は認められません。限度時間を超える分の割増率は、法定の25%を上回るよう努めます。 |
| 第6条 | 1か月未満の期間で働く人の延長時間は、目安時間(1週間15時間、2週間27時間、4週間43時間)を超えないよう努めます。 |
| 第7条 | 休日労働は、日数をできるだけ少なく、時間をできるだけ短くするよう努めます。 |
| 第8条 | 限度時間を超えて働く人のための健康・福祉確保措置を協定に盛り込むのが望ましいとされます。 |
| 第9条 | 新しい技術・商品・役務の研究開発業務には、限度時間、特別条項の上限、36条6項の上限が適用されません(36条11項)。ただし有害業務の1日2時間の制限は残ります。 |
健康・福祉確保措置のメニュー(第8条)
- 医師による面接指導
- 深夜に働かせる回数の制限
- 終業から次の始業まで一定の休息時間を確保する(勤務間インターバル)
- 代償休日や特別な休暇を与える
- 健康診断の実施
- 年次有給休暇をまとめて連続取得するよう促す
- 心とからだの健康相談窓口の設置
- 必要に応じた配置転換
- 産業医などによる助言・指導、保健指導
具体例で考える
O社の総務担当者が36協定の案を作り、特別条項の理由欄に「業務上やむを得ないとき」と書きました。これでは、どんな時期でも当てはまってしまいます。指針に沿うなら「年度末の決算業務の集中」「大型受注に伴う納期のひっ迫」のように、臨時の事情が読み取れる書き方に直す必要があります。
ひっかけ注意指針に合っていない36協定でも、法律上の要件を満たしていれば、それだけで無効にはなりません。指針に適合しないことは、監督署の助言・指導の対象になるにとどまります〔平成30年基発1228第15号〕。「指針違反なので協定は無効」という選択肢は誤りです。
猶予されていた事業・業務の扱い(2024年4月1日から上限規制を適用)
上限規制ができた2019年の時点では、業務の特性や取引慣行の事情から、一部の事業・業務について適用が5年間猶予されました。その猶予は2024(令和6)年3月31日で終わり、同年4月1日からは上限規制が及んでいます。ただし、事業・業務ごとに特例があります。
| 事業・業務 | 2024年4月1日以後 |
|---|---|
| 建設の事業 | 上限規制を適用。ただし災害時の復旧・復興の事業には、単月100時間未満と複数月平均80時間以内の規制がかかりません。 |
| 自動車運転の業務 | 特別条項の年間上限は960時間。月45時間超は年6か月までの制限、単月100時間未満・複数月平均80時間以内の規制は適用されません。 |
| 医業に従事する医師 | 特別条項を結ぶ場合の年間の時間外・休日労働の上限は、A水準で960時間、B水準・連携B水準・C水準で1,860時間などの特例があります。医療法などで追加の健康確保措置も定められています。 |
| 鹿児島県・沖縄県の砂糖製造業 | 特例はなく、上限規制がすべて適用されます。 |
暗記960時間は「運転手と医師A水準」、1,860時間は「医師のB・連携B・C水準」。建設業は年間時間の特例ではなく、災害復旧時に月100・平均80が外れる、という形です。砂糖製造業は特例なしで一般と同じです。
覚え方「“苦労(96)マル”の運転手とA水準、“一夜(18)ロク(6)マル”眠れぬB・C水準」……特別条項の年間上限は、自動車運転の業務と医師のA水準が960時間、医師のB水準・連携B水準・C水準が1,860時間。