労働基準法 ・ 第6章 割増賃金 ― 時間外・休日・深夜の上乗せ
6-2計算の土台となる賃金と代替休暇第37条・労基則第19条・第21条
3. 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
5. 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
ポテうちの住宅手当は「持ち家2万円、賃貸3万円」。名前が住宅手当だから、割増の計算から外していいですよね?
ロウ先生名前ではなく中身で判断します。住宅の形態ごとに一律で払うものは外せません。家賃などの費用に応じて額が変わる払い方なら外せます。
ポテじゃあ皆勤手当は外していい?
ロウ先生外せる7つの中にないので、必ず計算の土台に入れます。
ポテなるほど!「ヘルシー」って名前のケーキでも、カロリーは中身で決まるってことか!
割増賃金の額は「1時間あたりの賃金 × 割増率 × 時間数」で決まります。この節では、そのうち「1時間あたりの賃金」の出し方と、月60時間超の上乗せを休暇で返す仕組みを扱います。
1時間あたりの賃金を出す(労基則19条)
給料の払い方ごとに、割り算の仕方が決まっています。
| 払い方 | 割り算の仕方 | 所定時間がばらつくとき |
|---|---|---|
| 時給 | そのまま使う | ― |
| 日給 | 日給 ÷ 1日の所定労働時間 | 1週間の平均で割る |
| 週給 | 週給 ÷ 1週の所定労働時間 | 4週間の平均で割る |
| 月給 | 月給 ÷ 1か月の所定労働時間 | 1年間の月平均で割る |
| 出来高払など | その賃金算定期間の出来高給の総額 ÷ その期間の総労働時間 | ― |
具体例で考えます。B社の山田さんは月給30万円です。年間の所定労働日は240日、1日の所定は8時間です。月によって所定時間が違うので、年間の月平均を使います。
- 月平均所定時間:240日 × 8時間 ÷ 12か月 = 160時間
- 1時間あたり:30万円 ÷ 160時間 = 1,875円
- 時間外1時間の割増賃金:1,875円 × 1.25 = 2,343.75円
割るのは会社が定めた所定労働時間で、休憩を除いた時間です。9時から17時まで休憩1時間なら、1日は7時間で計算します。「暦日数÷7×40」のような法定労働時間の総枠を求める式は、1時間あたりの賃金の計算には使いません(労基則19条1項4号)。
計算から外せる手当(労基則21条)
個人の事情で金額が変わる手当まで割増の土台に入れると、同じ残業でも人によって単価が大きく違ってしまいます。そこで次の7つは除いてよいことになっています。
暗記家族・通勤・別居・子女教育・住宅の5つの手当と、臨時に払う賃金、1か月を超える期間ごとに払う賃金(賞与など)。合わせて7つ。
覚え方「暮らしの事情で変わる手当5つ、たまに来るお金2つ」……割増の基礎から外せるのは、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当の5つと、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)の2つ、合わせて7つ(37条5項、労基則21条)。名前ではなく中身で判断し、この7つにない手当は外せない。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとの賃金(賞与など)
- 7つにない手当(役職手当・皆勤手当・資格手当など)
- 名前だけ合う手当(中身で判断)

ロウ先生名前ではなく中身で見ます
この7つは限定列挙です。役職手当や皆勤手当、資格手当など、ここにないものは必ず土台に入れます。
名前ではなく中身で判断する
「家族手当」と名付けても、扶養の人数と関係なく全員に同じ額を払っているなら除外できません。通達は手当ごとに線を引いています。
- 家族手当:扶養家族の数と無関係に一律に払う分や、基本給に比例して払う分は除外できません。独身者にも払われる部分も同じです〔昭和22年基発572号〕。
- 通勤手当:通勤距離などに関係なく全員一律に払う定額部分は、除外の対象外です〔昭和23年基発297号〕。
- 住宅手当:家賃やローン返済額に一定率を掛ける、または費用が増えるほど段階的に増える支給方法なら除外できます。「持ち家は2万円、賃貸は3万円」のように住宅の形態ごとに一律で払うものは除外できません〔平成11年基発170号〕。
- 年俸制の「賞与」:年俸を16や18で割り、うち4か月分・6か月分を賞与として払う場合、その額は最初から確定しています。臨時の賃金とはいえないので、賞与部分も含めた年俸額が土台です〔平成12年基収78号〕。
ひっかけ注意「住宅手当は名称どおり除外できる」は誤りです。費用に応じて額が変わるかどうかで決まります。
名前が「家族手当」でなくても、たとえば「生活手当」が扶養する子の数に応じて額が決まるなら、家族手当として除外できます。
7つの除外とは別に、ある手当がその時間外労働の「通常の労働時間の賃金」にあたるかどうかは、時間外にした仕事の中身で決まります。特殊作業手当が付く現場作業を時間外にしたなら、その手当も基礎に入れます〔昭和23年基発1681号〕。手術手当のように特定の業務の対価である手当は、それ以外の業務で時間外労働をしたときは基礎に含めなくてよいとされます〔昭和26年基収3305号〕。深夜にかかる看護勤務1回ごとに定額で払う夜間看護手当も、労働時間の長さに連動しないので、基礎から外せます〔昭和41年基収1262号〕。
重なったときの率
深夜の25%は、時間外とも休日とも重なって足し算になります。一方、休日労働と時間外労働は重なりません。
| 組み合わせ | 最低の率 |
|---|---|
| 時間外 | 25% |
| 時間外 + 深夜 | 50% |
| 月60時間超の時間外 | 50% |
| 月60時間超の時間外 + 深夜 | 75% |
| 休日 | 35% |
| 休日 + 深夜 | 60% |
- 法定休日に10時間働いても、深夜にかからなければ35%で足ります。休日には「時間外」という考え方がないからです〔平成6年基発181号〕。
- 所定7時間の会社で8時間働かせた日の、7時間目から8時間目は割増不要です〔昭和23年基発1592号〕。
- 休日は午前0時から午後12時までの暦日で数えます。法定休日の日曜に出勤し、仕事が月曜の0時を過ぎたら、0時以降は休日労働ではありません。逆に、土曜の残業が日曜(法定休日)の0時を越えれば、そこからが休日労働です。
時間外の時間数は、まず1日8時間を超えた分を数え、次に、その分を除いた1週間の実労働が40時間を超えた分を加えます。同じ時間を二重に数えることはありません。
月60時間を超えた部分の50%
とくに長い残業を抑えるため、平成22年4月に導入されました。中小企業には適用が猶予されていましたが、令和5年4月1日に猶予が終わり、今は規模に関係なく適用されます。なお、45時間超〜60時間以下の部分は、25%を超える率にするよう努めることとされています(限度時間に関する指針)。
数え方の決まりは次のとおりです〔平成21年基発0529001号〕。
- 「1か月」は暦の1か月です。起算日は「賃金の決定、計算及び支払の方法」として就業規則に書いておきます。
- 起算日から時間外を足し上げ、60時間に達した後の時間外が50%の対象です。
- 法定休日の労働は60時間に数えません。所定休日に働いて法定時間を超えた分は時間外なので数えます。どちらが法定休日かを就業規則ではっきりさせておくのが望ましいとされています。
清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制では、1か月ごとに週平均50時間を超えた時間をその月の時間外として割増を払います。それが月60時間を超えれば、その部分は50%以上です〔平成30年基発1228第15号〕。
代替休暇 ― 上乗せ分を休みで返す
月60時間を超えた部分の50%のうち、通常の25%を上回る「引き上げ分」だけは、労使協定があれば有給の休暇に置き換えられます。休暇を取っても、元の25%は払わなければなりません。
休暇の時間数は「(その月の時間外 − 60時間)× 換算率」で求めます。換算率は、休暇を取らなかったときの率と取ったときの率の差です。
具体例で考えます。C社の鈴木さんは、ある月の時間外が80時間でした。C社の率は、休暇を取らなければ50%、取れば25%です。
- 60時間を超えた分:80 − 60 = 20時間
- 換算率:50% − 25% = 25%
- 与えられる代替休暇:20時間 × 0.25 = 5時間
労使協定では、次の3点を決めます(労基則19条の2)。この協定は労働基準監督署に届け出る必要がありません。
- 代替休暇の時間数をどう算定するか
- 取る単位(1日または半日)
- 取れる期間(60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内)
行政解釈と裁判例
代替休暇の運用について、通達は次のように整理しています〔平成21年基発0529001号〕。
- 休暇を取るかどうかは本人が決めます。会社が取得を義務づけることはできません。
- 取りたいと言っていたのに結局取れなかった場合は、引き上げ分の割増賃金を払います。
- 「半日」は所定労働時間のちょうど半分でなくてもよいのですが、協定で何時間を半日とするかを決めておきます。
- 協定で1か月を超える取得期間を定めていれば、前々月と前月の分を合わせて1日や半日にして取ることもできます。
- 休暇を取った場合と取らなかった場合の割増率は、どちらも就業規則に書いておく必要があります。
端数の扱いにも決まりがあります〔昭和63年基発150号〕。
- 1か月の時間外・休日・深夜の時間をそれぞれ合計し、1時間未満の端数が出たら、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げてよいとされています。
- 1時間あたりの賃金や割増賃金、1か月の割増賃金の合計に1円未満が出たら、50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げてよいとされています。
あらかじめ残業代を給料に組み込む「定額残業代」については、最高裁の判断が積み重なっています。
- 日本ケミカル事件〔最判平成30年7月19日〕:37条が求めるのは、法定の方法で計算した額以上を払うことです。基本給や手当に含めて払う方法そのものが違法になるわけではありません。ある手当が残業の対価かどうかは、契約書の記載、会社の説明、実際の勤務時間などを踏まえて判断されます。
- 医療法人康心会事件〔最判平成29年7月7日〕:医師の高額な年俸に残業代を含める合意があっても、通常の賃金の部分と割増賃金の部分を区別できなければ、割増賃金を払ったことにはなりません。
- 国際自動車事件〔最判令和2年3月30日〕:両者を区別できることが前提です。ある手当が割増賃金にあたるかは、名前や計算方法だけでなく、賃金体系全体の中でその手当がどんな役割を持っているかにも目を向けて判断します。
試験ではこう問われる
- 「代替休暇を取れば、月60時間超の部分の割増賃金はすべて不要」→誤り。免除されるのは引き上げ分だけです。
- 「代替休暇の労使協定は届出が必要」→誤り。届出は不要です。
- 「皆勤手当は割増の基礎から除外できる」→誤り。7つの中にありません。